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「おう」
「おう」
「え、もしかして帰る?」
「ん」
「なんでや。俺、誰か来るまで健気に待っとったのに」
「いやいやいや、思いっきり寝とったやろ。誰や、階段から落ちてガタンいわしてた奴」
「やから、夢の話やって」
「うん、よう寝てたな」
「なんやねん、最近集まり悪いやん」
「しゃーなしやって。4年生は就活忙しいやろし。あ、西野と城山先輩がいると思うで」
「西野って誰やったっけ」
「俺らと同い年の髪の毛赤い奴」
「ああー、シャンクスみたいなヤツか」
「ほんじゃ、お疲れ」
「待て待て、俺も帰る」
「は?」
「城山先輩、苦手やねん」
歩き出す俺の後ろをついてくるユキ。
「まあ、俺も得意な方ちゃうけど」
「なんか、部員に対して、〝お前ら全員、俺の舎弟〟的な圧を感じるねん。身体もデカくて見た目も暑苦しいし」
「まあ、あの人が一応部長みたいなもんやからな。ってか、部長か」
「あの人が部長でも、俺は舎弟やない。なんか下に見られてるのが最近とくに感じるねん」
「あんたが勝手に感じとるだけちゃうん?ってか、なんでついてくるん」
「俺は駅前に用あんねん」
俺も電車で帰るから目的地は一緒やな、と思った。
構外に出ると、良い天気でまだまだ明るかった。家に着くころには陽が傾いていると思うが、もともと洗濯物は部屋干し派やし、問題ない。ユキは隣でまだ喋っていた。
「なあ、これちょっと開けて」
「え、自分で開けぇや」
「手、滑ってよう開かんねん」
買ったばかりの缶コーヒーの、回すタイプの蓋を向けられた。周りに水滴がついていて、確かに滑りそうだった。
「貸してみ」
受け取って蓋を回すと勢いよく中身が噴き出て、手がコーヒーまみれになった。隣で身を捩ってひゃははは、と笑うユキに軽く殺意が芽生えた。
「・・・」
「ひっかかった!!それ、窒素ガス入りなん気づかんで、さっきめっちゃ振ってしもうてん、どうしよかな思うてたところにお前が登場してん、はー、おもろ」
黙って蓋を緩めた缶コーヒーをユキに渡した。
「サンキュ。・・・はー苦し・・・」
ユキが蓋に手をかけようとした瞬間を狙って、珈琲まみれの手で思いっきりユキの顔を掴んだ。下から両頬をむぎゅっと寄せて蛸口にしてやる。
「ほごよぅをうぃぎょ!?」
「・・・何語やねん」
「おまっ、ふざけっ、顔、ベッタベタやんけ!俺より性質悪いぞ!?」
「自業自得やろ。おもんないことするユキが悪い」
ハンカチにコーヒーが染み込むのが嫌なので、ボディペーパーで手を拭く。残りをポケットにしまおうとするとユキにぶん捕られた。
「なんやねん、せっかくお前の仏頂面を和ませよう思たのに・・・あ、これめっちゃええ香り」
「誰が仏頂面やねん」
ユキを置いて歩き出すと、また懲りずについてきた。
「なぁ、お前来月のBBQ行く?」
「ああ、いつやったっけ」
「第二日曜やったかな。そのままテント張って泊りらしいで」
「まあ、行ってもええけど」
「来週には出欠とる言うとったで。ジェイソン出そうなところやとええな?」
「俺、ホラー苦手やねん」
「なんで?」
「なんか、現実離れしとるやん。チェーンソーの油とかいつさしてんやろとか思ってまう。動かしてる最中に音聴きながら〝そろそろメンテナンスの時期やな〟とか考えてんのかな、とか妙に冷静になってまうねん。あと、テレビから人間が出てくる瞬間、もしこっちが全裸やったらどんな反応するんかな、とか、ご近所さんみんな集めて20人くらいでお出迎えしたら引っ込むんかな、とか」
「ハイ、出ました、にわか!!!」
「は?」
「ジェイソンはチェーンソー使わないねん。日本人あるあるでな、レザーフェイスと間違うとる」
「へー」
「・・・反応うっす」
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