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アラームをセットして、シャツのボタンをはずして脱いだ。ボディペーパーの封を切ると馴染みのある香りがした。あ、歯磨きするの忘れた。非日常の場所だと自分の毎日のルーティンが崩れる気がするし、言うまでもなく休んだ気がしない。この状況が楽しくないわけではないが、リラックスしたいという意味で早く家に帰りたい、と切に思った。とりあえず先に身体だけ拭くか。それから歯を磨いて、コンタクトレンズとって・・・。
眠気が強くなった頭でイメージしていると、テントの入り口から缶ビールを片手に城山先輩が入ってきた。
「お疲れ様です」
「瀬名、あっちでみんな花火とか盛り上がってるけど、やんないの?」
「正直、もう限界っス」
「限界って?眠いってこと?」
「朝早かったんで。明日、運転もあるし」
嫌味に聞こえないように口調には気を付けた。城山先輩から漂ってくるアルコール臭に、これは遠回しに参加を促されているのかも、とゲンナリする思いだった。
「運転なんて雪平にやらせりゃ良いじゃん。アイツも免許持ってんだろ?さっき聞いたらゲロったよ」
「いや、ペーパーやって言うんで、いきなり高速道路は、ちょっと」
「ホント真面目だよな、瀬名って」
これは真面目と言うのか?と頭に浮かんだ疑問と共に、これは「参加する」と言わないと出て行かないパターンだな、と思った。
「ちょっと、顔だけ出してから寝ます」
脱ぎたてのシャツに手を伸ばした。
「ああ、いいよいいよ、休んでな。俺もちょっと仮眠しよっかなって思ってきただけだからさ」
「・・・はあ」
そう言うと、あろうことか隣にゴロン、と城山先輩が寝転んだ。たぶん、これはこのまま寝落ちするパターンだ。缶ビールを枕元に置いて、さっきよりアルコール臭がキツく感じるくらい近い距離。誰もそこまで親しくない先輩とこんな近距離で寝たくないと思う。けど、この状態で移動したらあからさまに避けてるっぽいし。っていうか、避けたいんやけど。こんな時、ユキだったら〝いや、近いっすよ!〟なんて軽く突っ込めたんだろうな、と羨ましくなる。もし、歯磨きしに外に出て帰ってきたとき、城山先輩が完全に熟睡しとったらそれを機に場所移動しよ。本当は1人だったら半裸になって、豪快に顔から足の先までゴシゴシしたかってんけど、この状態ならとりあえず顔と首回りと手足だけササっと拭いてやな、と思った。ユキには悪いけど、明日は銭湯寄らずに家に直帰でそのままシャワーやな・・・。
大判のボディペーパーを手に取って、そのまま首周りから拭き始めた。あー、でも、昼間汗かいたから背中も拭きたい。やっぱり、せめてTシャツくらいは先輩の前で脱いでも失礼に当たらんかな・・・と思って、裾に手をかけた。
俺の記憶は、そこで止まっている。
気が付いたら周りは男女でくっついているか、男同士でガンダムの話で盛り上がるか、女子だけで、なんとかのプリンスたちとかいうゲームの登場人物の話で盛り上がっていた。正直、どっちも興味がない俺にとっては疎外感しか無くて。なんとかプリンスはともかく、俺もガンダムとか鉄道とか、そういう夢中になれるものを持っていたら、映研に属している意味ももっとあったんやないかと今更後悔する。瀬名のボディペーパーで適当に身体をフキフキして、俺もさっさと寝よ、とテントに向かった。瀬名の隣なら妙に安心感があった。
「瀬名ー。起きとる?ボディペーパーありがとなー」
スマホのライトを点灯させて、テントの入り口をシャッと開けた。
「そう言えば明日の銭湯って、タオル・・・、」
言いかけて、目を疑った。身体が凍ったように動かなくなった。
「・・・きっ・・・、ユキ・・・ッ!!!んっ・・・!」
叫ぶ瀬名の上に、城山先輩が跨っているのが見えた。
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