麻疹

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つうが目を覚ました。 「つう、起きたかい。 お腹が空いたろう。 お握りを用意して下さったから、 いただきなさい。」 「はい、父上様もお休みになって下さい。 朝早くから、父上様もお疲れでしょう。」 「そうだね。 廊下で横になっているから、 用事があれば起こしなさい。 では、若奥様を頼むよ。」 「はい、父上様。」 つうが使っていた座布団を廊下に並べて、 与ひょうは横になった。 つうも、若奥様が目覚めないうちにと 急いで握り飯をいただいた。 夕方になり、女中頭が薬師の先生を 連れて若奥様の部屋にやって来た。 「まぁ、与ひょう、 こんな所で寝ては風邪をひくのに…」 「女中頭さま、父上様は何処でも寝られますので大丈夫でございます。 今朝早かったので、もう少し休ませて下さい。」 「そうですか? では、先生どうぞお入り下さい。」 襖を閉めて、薬師の先生はお座りになり、 「お嬢さんが若奥様を看病してくれていたのですか?」と聞いた。 「はい、随分汗をかかれたようなので、 身体を清めて寝間着を着替えていただきました。 熱も落ちつかれように思います。」 「脈も強くなってきましたし、 お休みになれたようで、昨日よりは 随分良くなられました。 発疹が出たのは、昨日ですね。」 「はい、そうだと思います。」 「では、冷ました白湯を多く飲んでいただくこと、普段の熱に下がって三日、 発疹が出て四日経つまでは、 ご家族や周りの方と離れてお過ごし下さい。 今日は、重湯が召し上がれるなら、 差し上げて下さい。」 「先生…」 「若奥様、お目覚めになりましたね。 ご気分はいかがでございますか? お辛いところは、ございますか?」 「息苦しさはなくなりました。 まだ、頭の痛みは少しあります。 昨夜は、背中や節々が痛く眠れませんでしたが、それもだいぶ和らぎました。 つうが、手や足を揉んでくれたので、 楽になって眠れました。」 「若奥様は、胃と女子の臓器が弱っておいでのようです。」 「どうして分かったのですか?」 「はい、足を揉ませていただいた時、 胃のつぼと下腹の女子の臓器のつぼを 少し強くお揉みしたところ 痛みを訴えられましたので。」 「足のつぼを学んだのですか。」 「父上様が教えて下さいました。 山の集落には、薬師の先生は居られませんし、薬を村まで買いに来るのも大変なので、少しの病は足のつぼを揉んで治してやるのだと。 若奥様の手のひらのと手の甲をさすって、手のひらの真ん中を押して指を揉みましたら、気持ちが良いと仰ったので、 汚れた血が溜まって、淀んで居られるのだなと思い、足を揉ませていただきました。 ただ、お疲れが出るといけませんので、 軽くお揉みしました。」 「良い看病をしてくれましたね。 その後、白湯を飲んでいただきましたか?」 「はい、温くした白湯を湯呑みに一杯飲んでいただきました。」 「看病の仕方を良く学んでいるお嬢さんのようです。 咳が出た時の薬と気力を補う薬を処方しますので、煎じて飲ませて下さい。 特に変わりなければ、明後日また参ります。」 「つうさん、先生をお見送りしてくるから、若奥様をよろしくね。」 「はい。 若奥様、重湯は召し上がって良いそうですから、お腹が空かれたら仰って下さいませ。」 「ありがとう。先に白湯をもらえますか?」 「はい。少しお待ち下さい。 父上様、お目覚めですか?」 「若奥様の御用かい?」 「はい、冷ました白湯をお願いします。」 「すぐお持ちしますとお伝えしなさい。」 「父がすぐお持ちするそうです。」 「つうは、集落の人が病気の時は、 さっきのように、足や手を揉んであげたりするのか?」 「はい、まだ熱が高くて白湯も飲めないときはしませんが、白湯が飲めるようになれば、揉んだ方が身体の汚れた血が溜まって淀んだ物が出やすくなるので、早く治ります。 さすると気持ち良くなり、痛みも和らぎますので、痛みが強いときは揉まずにさするか、手を当てるだけでも和らぎます。 父が、手を当てる、人の肌に触れるだけで痛みや苦しさは和らぐ。 だから、手当と言うんだと教えてくれました。」 「若奥様、白湯をお持ちしました。」 「ありがとうございます、父上様。」 「若奥様、お起きになれますか?」 「つう、起こしてくれるか?」 「はい。」 ゆっくりと起こしてやる。 「ご気分は、大丈夫でございますか?」 「ん、大丈夫じゃ。」 「白湯でございます。」 「ありがとう。」 ごくごくと飲み干した。 「薬を飲んだら、重湯をいただくので、 用意して下さい。」 「分かりました。厨に伝えて参ります。 湯呑みをお下げします。」 「つう、横にならせておくれ。」 「はい、若奥様。」 「若奥様、今薬を煎じております。 薬の用意が出来たら、女中頭さまがお持ちになるそうです。 若奥様、お熱も下がられてきているので、 明日一度山に戻ってもよろしいでしょうか。 つうは、残していきますので。」 「もうしばらく居てくれると助かるが、急ぎの用事か?」 「いえ、お知らせを聞いて、慌てて出て参りましたので、色々と片付けぬままでした。 やりかけの仕事もありましたので、 片付けてきりの良いところまでやって来たいと思いまして。 夜までには、お屋敷に戻りますので。」 「そうか。 それならば、致し方あるまい。」 しばらくすると、女中頭が薬を持って来た。 「若奥様、お薬でございます。 与ひょうとつうは、部屋で休むと良い。 後は、今晩は私が若奥様の側で寝ますので。」 「それでは、重湯をお持ちしたら、 下がらせていただきます。」 「こちらに重湯を置きましたので。」 つうと与ひょうは、下がっていった。
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