おつう

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おつう

そして、翌朝 つうの墓に手を合わせに行こうと、 家の戸を開けると、墓の横に赤子を入れる駕籠のようなものがあるのが見えた。 慌てて駆け寄ると、駕籠の中に赤子がいた。 与ひょうを見て、泣きもせずにこにこと笑っている。 女の子のようだ。 集落に乳の出る女はいただろうか、と考えた。 与ひょうは、赤子を育てたことはなかった。何が必要なのかもわからない。 乳は、何度飲ませれば良いのだ? とにかく、乳母やさんを頼ろうと、 赤子を布でくるむようにして首から下げ、 抱いて庄屋様の屋敷に向かった。 屋敷の裏からいつものように入り、 家人に乳母を呼んでもらった。 「乳母やさん、お助けください。」 「まぁ、与ひょう、赤子ができたのか?」 「違うのです。 お知らせしませんでしたが、 つうは、冬の初めに亡くなりました。 葬式はせず、家の前に私が墓を作りました。桔梗の花が咲いたので、昨日 つうの墓に供え、今日、お嬢様のお墓に参って桔梗の花を供えるつもりでした。 今朝、つうの墓に手を合わせに行こうとすると、墓の横に駕籠が見えました。 行ってみると、中に赤子がいたのです。 集落にも乳の出る女は何人か居りますが、 私は赤子を育てたことがありません。 どうして良いか分からず、乳母やさんを頼るしかないと思い、参りました。」 「そうでしたか。 可愛い女の子ですね。 捨て子でしょうか。」 「分かりません。 でも、うちの前に居りましたので、 見ない振りも出来ず、なんとかせねばと…」 「旦那様に相談して参ります。 与ひょう、もしお許しが出たら、 乳離れするまで、こちらで預かってもよいか?」 「はい、それは、もう。」 「では、しばしそこで待っていなされ。」 赤子は、相変わらず泣きもせず、 与ひょうの腕の中で笑っていた。 しばらくすると、乳母やが戻ってきて 「旦那様のお許しが出たので、 赤子はこちらで預かります。 それと、旦那様がお前に会いたいそうだから、座敷に上がるように。」 「畏まりました。」 「旦那様、与ひょうでございます。」 「おお、与ひょうか、良く来た。 乳母から聞いたが、嫁御は亡くなったそうだな。 残念なことだ。力を落とすでないぞ。 そなたが持ってきたあの反物を、 お殿様に献上したところ、大変お喜びいただいた。 だから、そなたと女房に褒美をと思っていたのだ。亡くなっていたとはな。 褒美の代わりといってはなんだが、 赤子は乳離れするまで、こちらで預かる。 月に一度は様子を見に来るが良い。 女房の生まれ変わりと思って育てたら良いのではないか。」 「はい、私を見てにこにこと笑うのです。 つうの生まれ変わりと思って育てます。 村に来る時は、様子を見に寄らせていただきます。では、失礼いたします。」 「与ひょう、名は付けたのか。」と 乳母に尋ねられた。 「まだでしたが、つうの生まれ変わりと思いますので、“つう”にいたします。 つう、よい子にしているんだよ。 村に来るたびに会いに来るからな。 乳が離れたら、家に引き取るから、 それまでよい子でな。 では、乳母やさん、よろしくお頼みします。」 名残惜しそうに与ひょうは、 山の家に戻っていった。 家に帰る道すがら、集落で幼子のいる家に寄り、聞いた。 乳離れしたばかりの子に必要な者は何か。 「何でそんなことを聞くんだ?」 「今朝、つうの墓の横に駕籠があって中に赤子がいたのだ。捨て子なのか分からんが、つうの生まれ変わりと思っておらが育てる。 だが、乳飲み子だから、乳離れするまで、庄屋様のお屋敷に預かってもらうことにした。 家に連れ帰えるまでに、必要な物を揃えておかねばと思って聞いたんだ。 子どもを育てたことはないから。」 「そうさな、肌着やらおむつやら、 おぶい紐もいるな。細々とあるから、 村に用事で行く度に少しづつ聞いて揃えたらええ。 うちで使った物で、もういらん物があれば持っていく。 皆にも声かけておく。 与ひょうには、いつも世話になってるからな。」 「ありがとう。頼むな。」 家に帰るとつうの墓に手を合わせた。 つう、お前の生まれ変わりじゃろ? あの子。おらの顔見てにこにこしていた。可愛い女の子だ。 大きくなったら、きっとそっくりになる。 名前も同じつうにした。ええだろ? 朝飯も食べず村に行ったから、腹減ったわ。飯を食べてくるな。 つう、ありがとう。
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