行儀見習い

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行儀見習い

しょうやのだんなさま せんじつ、おやしき で ごあいさつ いたしました、つう でございます。 てがみ の かきかた も よくぞんじませんので ごぶれいがあれば、おゆるしください。 ぎょうぎみならいのことで、ごへんじもうしあげます。 わたしは、山のくらしが すきでございます。父ともはなれたくございません。 ですので、一月に、なのか だけ、 父といっしょなら、ぎょうぎみならいに まいりたいとぞんじます。 父は、むらにいるあいだ ものうりをしたり おやしきのしごとの てつだいを させていただきます。 それでも よろしいでしょうか。 おじひをいただきながら わがままもうしあげ もうしわけございません。            つう 手紙が書き上がると、与ひょうは、 それを持ってお屋敷に向かった。 裏の勝手口から入り、家人に取り次ぎを頼むと、また、若様がおいでになった。 「与ひょう、 今日は、つうは一緒ではないのか?」 「はい、今日は、おつうが自分で旦那様に手紙を書きたいというので、 書かせた手紙を持って、私だけ参りました。 これでございます。 旦那様にお取り次ぎいただけますか?」 「分かった。 お祖父さまにお渡ししてくる。 しばし、待っておれ。」 「お祖父さま、よろしいでしょうか。」 「若、何か用か?」 「与ひょうが参っております。 先日挨拶に来たおつうが自ら手紙を書いたそうでございます。 こちらでございます。」 「与ひょうが持って来たのか?」 「はい、裏で待たせて居ります。」 「会いたいので、座敷に通すのだ。」 「畏まりました。」 若様が与ひょうを呼びに行く間に、 おつうからの手紙を読んだ。 「失礼いたします。与ひょうでございます。」 「おつうの手紙は読んだ。 かなは、書けるのだの。」 「私も昔お嬢様に教えていただき、 かなならば読み書きができます。 おつうも七歳になりましたので、 読み書きを教えました。 その紙と筆と墨も、お嬢様からいただいたものを仕舞ってあった物です。」 「お鶴も山の暮らしが好きであったようだ。 おつうの申す通りで良い。 一月に七日で良いから、行儀見習いに連れて参れ。 そなたは、その間、物売りをしても良いし、手が空いているのなら、屋敷の仕事を手伝ってくれ。 山の仕事が一段落したら、ふたりで来るが良い。待っている。」 「我が儘をお聞き届けいただき、 ありがとうございます。 では、失礼いたします。」 こうして、一月に七日、 与ひょうはおつうを連れて村のお屋敷に行き、 おつうは、行儀見習いをする事になった。
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