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「炊飯器、品評会やってから帰ろ」
「品評って?」
「どの炊飯器が一番開けるボタン押しやすいか決めるの」
「いーよぉ」
梓が私の提案に気のない返事をしながら、目の前の炊飯器のフックボタンを押す。
「これはちょっと固すぎますねぇ」
「委員長、何点くらいでしょうか」
「25点ってところだねぇ」
「厳しいな、委員長」
平日の夕方の売り場はお客さんもまばらで、炊飯器の売り場には私達しかいなかった。
真っ赤な色のアイアンマンのマスクみたいな炊飯器のボタンを押してみる。
「おっ、これ1位じゃない?」
「どれどれ」
梓が興味津々という面持ちでボタンを押す。
「めっちゃ良いじゃん。これだわ、1位」
「最高だね。軽いし、さくっと開くしさ」
「開くスピードも最適だよね」
赤い炊飯器を取り囲んで絶賛している私達の元に、店員さんを引き連れた若いカップルがやってくる。
「すみません、これが欲しいんですけど」
私達は、ばっと炊飯器から離れて何食わぬ顔で歩き出す。
「見られてた、見られてたよね?」
「やばい、めっちゃ恥ずかしい」
「しかも売れてたね」
「さすが1位なだけあるよね」
「私だったら、事あるごとに押しちゃうな。あのボタン」
「良い気分で暮らせそう」
「最高」
うんうんと頷きながら、私達は降りるとか登るとかの相談もなくエスカレーターを降り始めた。
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