20.

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アイスクリームを食べ終えて二人で寝室へ行き日中に購入してきた寝具一式を入れ替えることにして、使用済みの寝具を取り外して床に置き、袋から取り出してシーツや布団を敷いていった。新しい寝具の匂いが新鮮さを感じて、僕はふざけ半分でベッドの上に飛び乗ると、久ヶ原が降りてくれと言い嫌だと答えると身体ごと抱きついてきてお互いに横倒しになりじゃれ合った。 「いいから離せって」 「嫌だよ。今日からここで二人で使うんだ。ねえ、服脱ごうよ」 「向こうの電気消してくる。待っていろ」 「枕元のランプつけたままにするね」 しばらく待ち再び彼が来るとベッドに座った彼に抱きついて膝枕の状態で太ももに頭を乗せて甘えてみた。 「新の太もも温かい。気持ちがいいね」 「結構酔ったな。今日は酔いが回るの早くないか?」 「そうみたいだね。ねえ、チャック開けていい?今触っているところが見たい……」 そう伝えると彼はパンツのチャックを開けて陰茎を掴んで舐めていくと、彼がため息をこぼしてきたので更に(むせ)るくらいに喉の奥まで入れて愛撫しては陰嚢も触れながらしゃぶっていった。 「翔……くすぐったい」 僕は一度彼の顔を伺い赤くなった頬や額を見つめて微笑しては再び舐めていく。彼は今にもイってしまいそうな勢いだと告げてきて、肩を掴んでくると僕は起き上がってキスを交わしていった。唇の動きを止めて髪をかき上げ甘い眼差しをする彼に僕はつぶやいた。 「うん?」 「どこへ行っても、必ずここに戻ってきて……」 「俺がどこかに行きそうか?」 「ある。誰かの元へ引きずられそうになったとしても……俺の傍から離れるな。約束して」 「分かった。なぁ……お前好きな体位ってある?」 「仰向けになった時に片脚が相手の肩に上がってる状態で性器を舐められるのが好きかな。先にそれをしてからまたいつものように挿れていってほしい……」 「もう一つ、聞いて良いか?」 「何?」 「今度の休みが取れたら連れていきたい所があるんだ。土日なら空いているよな?」 「うん。どこに行くの?」 「内緒」 「言えって」 「嫌だ。当日まで楽しみに待っていろ」 「ふふっ……」 再び舌を交えながらキスをしては絡みつくように身体を抱き合った。 「……翔」 「うん?」 「愛してもいい?」 「いいよ。僕も新を愛したい、いや……愛している」 そのままベッドに倒れて衣服を脱いでいくと彼が僕の足の指を一本ずつ舐めていき,それに応えるように性感帯が貫通するように脳まで刺激を与えてきた。淫声をあげると彼も喜ぶように微笑んで、素肌の上を手で滑らせなぞっていっては、(むさぼ)るように裸体を絡めていった。 身体ごと包まれながら何度も確かめるように顔を近づけて目を合わせてくれとせがみ、体位を変えて窓の外に浮かんでいる上弦の月を見つめながら、互いに揺れる熱情を燃やしていく。 数メートルは近いであろうと錯覚に捉えられたその月に向かって腕を伸ばし、掴みそうになったところで彼がその腕を手に取って抱きかかえた。やがて眼振のごとく視界が朧げになり彼の熱を感じながら深い闇夜に二つの身を投じていった。 ◇ 「○○さん、お会計こちらです」 数週間後、僕はいつも通りに業務に勤しんでいき昼休憩に入ると近くにある蕎麦屋に入って食事を済ませ、再び院内の事務室に戻るとある業者の女性がこちらに会釈してきたのでその姿に気づくと比島が父と会話をしていた。 「そうか、久ヶ原さんの部下の方でしたか」 「課長がお世話になっております。今回から薬品提供を私どもの弊社から使っていただけるという事で本当にありがたく思います」 「いえ。今後ともよろしくお願いします」 「……そうか。うちの医院で光和さんの製品を扱う事になったんですね」 「はい。後発医薬品も向かいの薬局でもうちのものを使うというお話になりまして」 「これから出入りするのか。なんか良い縁があっていいですね。あの、あれから紹介したクリニックはどうですか?」 「そこの婦人科の先生も親身になって聞いてくださるので安心しています」 「今何か月目?」 「九週目に入るところ。そろそろつわりも出てくる頃かなって」 「気をつけてくださいね。久ヶ原さんも伝えてあります?」 「はい。もう少ししたら休暇届も出せるからそこはご心配なく」 「じゃあ僕はこれで失礼します。何かあったら僕らスタッフに声かけてくださいね」 「ありがとうございます。では私も失礼します」 ◇ 十一月に入り、久ヶ原の業務が落ち着いた頃にお互いの休日を使って会う約束をした。表参道のカフェで少し遅い昼食を済ませてから電車に乗り、夕食の食材を買ってきてそのまま彼の家に行き、二人で支度をして鍋に煮込んであるものが煮えるまでの間に、話したいことがあると言ってきたのでテーブルの椅子に座った。 「どうしたの?」 「……これ、お前に渡しておくよ」 「家の鍵だよね、俺が持っていていいの?」 「合鍵だ。これからは来たい時に家に上がっても良いよ」 「平日はなかなか会えないじゃん。それでも預かっていていいの?」 「ああ。あと、寝室のベッドもう一つ増やすことにしたんだ」 「机どこに置ける?」 「そのソファの隣の壁側に持ってこようとしている」 「それもしかして……俺専用のベッド?」 「当たり。もうそろそろお前も独り立ちした方がいいんじゃないか?」 「まだ家にいるよ。両親が心配でさ」 「もう大丈夫だよ。今度からここに住め」 「……ちょっと狭くない?それなら引越しして新しい家に行った方がいい」 「ここにしてくれ。この家の方が馴染んでいるし、どこに行くにも利便性が効くからいいんだ。翔、一緒に暮らそう」 「わかった。じゃあ次の休みに荷物をまとめておかないといけないな。慌ただしくなりそうだ」 「手伝うよ」 「大丈夫。そのくらい一人でさせて」 「……待っているよ」 「ああ。こちらこそよろしくお願いします」 この日ばかりはお互いに妙に照れ臭かった。僕たちは二人だけで決めたパートナーとして共に歩んでいく。そしてまた、身近な人達へとこの思いがいつの日か届くように、いつまでも深愛なる絆を繋げていけたらいいと祈るばかりだ。 この温かい食卓を囲みながら、お互いにあった仕事のことや家族の話をしては、笑って過ごす日を積み重ねていけるよう惜しむことなく称えあっていける二人でいたいのだ。 今日の夕飯は二人が好きなクラムチャウダー。鍋のふたを開けると具材がちょうどよく火が通っていて、その香りに自然と笑みがこぼれていった。 《了》
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