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「あのなぁ…」 人気のないところまで連れてこられて、話を始める。 おこってる?ごめんなさ―― 「『ごめんなさい』は悪いことをした人が言う言葉だろう?謝らなければならないのはあいつだ。」 「ぼくが…」 言葉がうまく出てこない。 僕の体は不自由で、何もかもうまくいかない。 話したいことも話せない。他の子のように無邪気に走り回ることもできない。 何かをされて抵抗することもできない。 「大丈夫だ、ゆっくりでいい。ここにお前を責めるものはいない。」 ゆっくりで、いいの? さっさと言えって、怒らないの?どうして? 「…ぼくが、いるせいで、みんな喧嘩するんだ。」 「お前がいなくても喧嘩は起こるだろう。」 「それでも、喧嘩する量は、増えちゃう。ぼくのせいなんだ。」 僕がそこにいなければ起こらなかったはずの喧嘩だってたくさんある。さっきだって、僕が虐められるような性格をしているせいで二人は言い争いになったんだ。 「そう、自分ばっかり責めるな。あと、聞きたいことがある。答えたくないことは答えなくていい。…昨日、何があった?あいつがいつもよりうるさかった。まぁ、普段からうるさいが…」 「ごめんなさい。ぼくのせいで、うるさく――」 「怒っていない。ただ、その理由を知りたいんだ。」 り、ゆう?わかんない。 昨日あったことは… 「ぼくのおくすり、取られちゃった。」 「薬を?…ちなみに、それはなんの薬なんだ?」 「わからない。おいしゃさんにもらってるの。」 「そのお医者さんっていうのは、病院にいる?」 「ぅん。」 お医者さんが、僕に違法薬物?を、渡したの? 「それはどんなときに飲むんだ?」 「なんとなく。体とか、こころが苦しくなったときとか、ぼくがしごとをやめたいっておもっちゃったとき。」 仕事(生きること)は生物としての義務。 高校を出てから働いたりするのは、その仕事をより快適にこなすため。 「仕事って?」 「…みんなの仕事。にんげんの、仕事。生きること、それが、ぼくたちががんばらなきゃいけない、最大の仕事。」 「やめたくなる時があるのか?」 「ぼくは、ずっとやめたいって思っちゃうの。ちゃんと仕事をできないぼくは、にんげんとしての落ちこぼれで、くすりは、仕事につかれた時とかに飲む、サプリみたいなもの。こんな仕事、すぐにでもやめたい。でも、やめるとひどい罰をうけるから。」 神様も、完璧じゃない。ちゃんと仕事をこなせない不良品を作ってしまうことがあるんだから。じゃあ、どうして、そんな不良品を早く捨てないんだろう? 「…そうか。あいつが、何でおまえの薬を取ったかわかるか?」 「それも分かんない。わかんない、けど、ぼくが、いほうやくぶつっていうのを飲んでるって、言ってた。」 「あいつはそういって、お前を虐めたいだけだ。…薬の変えとかは、持っているのか?」 「んん。持ってない。昨日病院に貰いに行こうとしたら、閉まってたの。今日、開いてたら、貰いに行かないと、いけない。」 「昨日薬を取られたことは、親に言っているのか?」 「…虐められてることも、言ってない。くすりを飲めてないことも言ってない。知ったら、怒る。ぼくが、死のうとするから。」 くすりを飲んでいないと、今日の腕みたいに気づかないうちに自分で傷をつけていたり、自殺しようとしてる。 だから、僕が薬を飲まないと、お母さんはおこる。 「それはお前を心配して、怒っているのか?」 「わかんない。でも、心配はかけたくない。でもないのに、家においてくれてるの。そんな人に心配かけたくないの。」 僕は、急に外から押しかけてきた部外者だから。 心配されるような筋合いはないんだよ。 「…ほんとうのお母さんは?」 「ぼくの手で、殺された。だいすきだったのに…久しぶりに、帰ってきたお父さんが、お母さんの料理の手伝いをしてたぼくの手を、いきなり掴んで…お母さんをささせたの。」 秋原くんは目を見開く。想像していた話と違う買ったのかな。 僕の目から涙がこぼれ落ちる。 どうして、にんげんは「泣く」をするんだろう。苦しいだけなのに。他の人に心配をかけるだけなのに。 「嫌なことを思い出させてしまって悪かった。取り敢えず、薬は俺が話をして取り返してやる。」 「なんで、秋原くんが、こんなぼくのために色々してくれるの?ぼくは、人にやさしくされるようなことしてないのに。」 「そんなことはない。俺がしたいことをするだけだ。」 だって、そんなの、なんにも君のためにならないじゃないか。 「いいか、俺があいつをとっちめてやりたいだけだ。お前のためじゃない。」 僕を理由にして、とっちめられる? 秋原くんは、それで嬉しいの? …僕が、薬を取られたから、秋原くんが喜んだ。 「ぼくの、おかげで、?」 「あぁ、そうだ。今日こそあいつをとっちめてやろう。」 僕のおかげ…僕のお陰で、人が喜んだって。
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