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次々と失敗するなか、まだ諦めきれなかった俺は何かないかと模索する。そんななか、唇にスティックのりみたいなリップを塗る女子に目がいった。 「みてみて!どう?」「おっ、それ良いね〜!色付き?彼氏もイチコロじゃーん!!」「それなー!」 キャッキャッとはしゃぐ女子達を邪な────否、微笑ましく見つめていたら、あることを閃いた。それは結那自身を陥れるには十分過ぎるほどの作戦だった。相も変わらず女子達に囲まれ楽しそうな結那を見つめながら『笑っていられるのも今のうちだぜっ!』と悪役並の笑みを浮かべ、その日は学校が終わるとゲーセンの誘いを断り早々に帰宅した。 家に帰った俺は、さっそくある道具を持ち寄り、その人物の帰りを今か今かと待ち望んでいた。夕刻ぐらいに帰宅したその人物は、持ち出された私物に俺を怒鳴りつけた。 「ちょっとアンタ、何考えてんの?ひとの化粧品を勝手に持ち出して!!」「姉ちゃん頼む!お願いがあるんだっ!!」「はぁ?」 足元に土下座をする俺に、パチクリと瞬きをした姉貴はワケを訊ねる。俺は咄嗟に考えた出任せを熱弁して姉貴を説得した。 「───学校のイベントで女装する事になったからアタシに化粧を教えろと?」「そうなんだ!だからこの際、リアリティを追求しようと姉ちゃんに化粧の仕方を教えて貰いたくって……」「ふぅん」 すっかり騙された姉貴は、しょうがないわねぇと渋々承諾する。 「いいわよ!ただし、後でリップグロスは買い直して貰うからね?」「ウグッ…わ、分かった!」「よろしい。それじゃあまずはアタシが化粧してやるから、それを真似て覚えなさい?」「おう!」 俺の顔に化粧を施しながら教えてくる姉貴。俺はいつもより真剣になりながら、化粧品の名前やら仕方を覚えた。鏡越しに映る自分はそれから数分もしない内に徐々に女の子へと変貌した。 「うおおお!すっげえ!!」「あとはウィッグをつけて…よし、出来上がり!」 じゃーん!と得意気に笑う姉貴が化粧を終わらせると、そこにいたのは服以外完全な女になった俺だった。 「やっぱりアンタ似合うわね?アタシよりいけてんじゃん」「マジ!?俺もそう思うわ~〜!」「ウゼェ…調子こくなよ?このクソ弟」「うふふふ〜!!ごめんお遊ばせぇ~~お姉様~?」 切れ気味の姉貴にふざけてみるも、女装のお陰か、いつもみたいに手を上げられる事はなかった。 「まぁ、可愛いのは確かね。ほら、次はアンタが化粧をする番よ?一回化粧を落としなさい!」「へーい」 された化粧を一端落として、今度は自分でやる様に言われる。鏡を見ながら俺は姉貴に指示されながら化粧した。しかし初心者なのか、なかなか上手くいかない。 「ファンデーション塗りすぎ!アイラインはみ出してる!リップグロスは唇以外に塗るなっつってんでしょ!?」「は、はいっ!」 叱咤されながら出来た化粧は、ヘンテコ過ぎて姉貴が途中で噴き出す始末。 「ブッ…ブッッサァ!!さっきよりお似合いよ?奏人ちゃんっっギャハハハ!!!!」「笑うなっ!」 腹を抱えて笑う姉貴を余所に化粧を落とした俺は、鏡を見つめながらもっと上手くなってやると決意を胸にした。そうして死に物狂いで化粧を勉強した俺は、寝る間も惜しんで【授業中は寝ていたけども】必死に頑張った結果。 「あら、アンタ凄いじゃない!」「まっあね~~?」 カツラである長い黒髪を手で払い、姉貴が昔使っていた同校の制服を着てポーズをとれば、姉貴に褒められるほどには上達していた。 「そこまで出来れば十分ね。上手くいくと良いわね?」「ああ。これでアイツをギャフンと……」「ギャフン?」「あ…いや、こっちの話!」 思わず漏れた本音に姉貴が不思議そうな顔をしたが慌てて誤魔化し、俺は陰で悪い笑みを浮かべていた。 全ては結那への仕返しの為に……。
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