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「あっ……」
声が漏れたのもつかの間、背後の足音がピタリと止まり、結那の声が微かに聞こえた。
「えっ……奏、人?」
名前を呼ばれて血の気が引いた。恐る恐る後ろへ振り返ると、そこには目を丸くしながらスマホを手にシャッター音を鳴らす結那の姿があった。
「ちょ、なに撮ってんだよ!!」「えっ?記念……」「記念じゃねぇよッッ消せ!今すぐにっ!!」「ヤダ」「はあぁッ!?」
あまりの羞恥に勢い良く立ち上がった俺は、そのまま結那に飛び掛かる。
「コノヤロー消せってばッ……!!」
結那の手にあるスマホを取ろうと手を伸ばすと、逆に手を捕まれ、そのまま抱きしめられた。
「なっ!おいコラッ放せっ!!」
ギチギチと身体を締め付けてくる結那に怒りをぶつけるが、結那は無言のまま放してはくれない。それどころか力を入れて抱きしめてくるもんだから、身体が軋み、痛みすら感じた。
「ゆ、結那ッ、痛い!痛いから放せぇえ!!」「……」「結那って!ホントに痛いってえぇ!!」
無言の結那に怒りを通り越して段々と恐怖心が湧く。俺は痛みと恐怖で涙目になりながらも、結那に懇願した。
「結那さん、ホントお願いします。俺の身体がこわれちゃうよぉおい!!結那ぁあああ!!!!」
すると結那の腕が少しだけ弛んだ。てっきり離してくれるものだと、俺は結那にお礼を言おうとした。
「結那!ありが──────」
しかし、言い掛けた言葉は結那の不意打ちのキスによって呆気なく紬がれた。
「ッ……!」
俺は思わず拳を振るった。
ガッと殴られて結那が蹌踉めき後ろに下がる。
「お、お、お前……ふざけんなッッ!!」
口を拭って結那を怒鳴りつけた。マジで最悪だ……俺のファースが。
「初めてだったのに……チューすんの」
嘆くように呟けば、殴られた頬を擦りながら結那が笑った。
「ハハハッ……残念だったね?」「テメッ、、ふざけんなよッ!?」
嘲笑う結那にくいかかると、結那は冷めた目で俺を睨み付け、それから静かに口を開く。
「はぁ?ふざけてんのはどっちだよ。そんな格好してさぁ……誘ったのは奏人の方だよね?」「ッ…これは、、」「まぁ、君の事だから俺に何か仕掛けようとしてたんだろうけど」
図星をつかれて苦虫を噛む。確かに結那の見解は合っている。だが、それとこれとは話が別だ。
「だっ、だからってチューする事ねぇーだろ!?俺は男だぞっ!!そんな……そんな嫌がらせしなくてもいいじゃんかッ!」
そうハッキリ告げてやると、結那は目を見開いた後静かに呟いた。
「……嫌がらせ?」「あぁ、そうだよ!」
返答する俺に顔を俯かせた結那は、フッと笑って何かを諦めた様に謝罪の言葉を告げる。
「そっか。ゴメンね……?」「結那……」
顔を上げた結那はいつもの笑顔を見せた。俺は少しホッとして結那にホントの事を告げようとした。
「いや、いいんだ!その、俺もゴメン。俺もホントは────「奏人」
その時、結那が何かを言った。
「えっ……?」
聞き取れなくて、もう一度結那に聞き返すと、結那は笑ってこう告げた。
「だから、好きだよ。ずっと前から……」
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