再会

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再会

 高校生の頃、僕にはずっと好きな人がいた。  彼はいつも本を読んでいて、一人で過ごしている大人しい子だった。  別に親しいというわけではない。  会話したことも数えるくらいしかないし。  いつも一人でいる彼が気になってよく見ていた。  読んでいる本を見ると僕が読んでいる本と同じものが多くて勝手に親近感を抱いていつの間にか好きになっていた。  想いを告げられずに卒業して、それから誰かを好きになることもなくいつも心の片隅に彼がいた。  今日は同窓会。  彼に会えるかもしれないと淡い期待を抱いて会場に向かった。  会えたからといってどうなるわけでもないのだけれど。  会場に入ると一際女子が群がっている場所があった。  中心にいる人物は誰なのか分からない。  もう来ているはずの友人の姿を探す。  数少ない僕の友人のうちの一人である彼は、料理が並べられた場所にいた。 「翔太くん、久しぶり」  彼が手を止めて僕の方を見た。  うわ、懐かしい。 「潤くん、久しぶりだね」 「相変わらず食べるの好きなの?」  お皿にこれでもかというくらい料理をのせた彼がそのふくよかな体を揺らして笑った。 「ふふふ、大好き。  ここのホテルが会場って聞いたから来たんだもん」 「変わってないなー」  全然変わってない姿に安心する。  僕も何か食べようと思ってお皿を取りに行こうと移動すると、女子の群れの中から僕の名前を呼ぶ声がした。  気のせいかなと思って通り過ぎようとすると「待って」とまた声が聞こえた。  女子の群れの中からびっくりするくらいのイケメンがキラキラした笑顔を振りまきながらこちらへやってきた。  あの人誰だろう。  全く思い出せないそのイケメンは、僕の前まで来ると顔を赤らめながら「久しぶり」と言った。  こんなイケメンを間近で見ることがない僕は口を開けて見惚れてしまった。  いや、かっこよすぎでしょ。 「あの、僕のことを覚えてない?」  小首を傾げるイケメン。 「ごめん、誰だっけ?」  悲しそうな顔をされてなんだか申し訳なくなってくる。  でも本当に知らない。 「宮崎太一です」 「え……えぇ!?」  その名前は僕の初恋の人の名前で、当時とはすっかり変わってしまった風貌に狼狽する。 「宮崎くんなの!?」 「うん、思い出してくれた?」 「あぁ、うん。  随分変わっちゃったから分からなかった。ごめんね」 「いや、全然。また会えて嬉しいよ」  微笑みかけられて心臓が高鳴る。  まさかこんなイケメンになっているとは思いもしなかった。  高校生の頃は目立たない存在の彼だったのに。  きっと美人な彼女がいるんだろうな。 「宮崎くん、こっちで食べようよ」  待ちきれないというように女子が困ったような顔をする彼を引っ張っていって、また群れが出来上がった。  今日の主役は間違いなく宮崎くんだな。  彼の前ではどんな男も霞んでしまう。  ハァッとため息をついて皿を取りに行った。  今日は翔太くんとヤケ食いしよう。  二人でモリモリ食べながら近況を語り合った。  翔太くんは料理上手な彼女がいるらしく、置いてけぼりをくらったような気がして気持ちが沈む。  周りを見渡すと薬指に指輪をしている人がいたりしてさらに落ち込む。  みんなが幸せそうに見えてなんだか居たたまれず、落ち込んだ気持ちを抱えたまま会場を後にした。  来るんじゃなかった。  若干涙ぐみそうになりながら歩いていると走ってくる足音が聞こえてきた。  電車の時間が近づいてるのかもと思って僕も走り出す。 「待って」という声が聞こえた。  特に気にすることなく走っていると「佐藤くん」と呼ぶ声がした。  足を止めて振り返ると宮崎くんが必死に走ってくる姿が見えた。 「ハァハァ、どうして走るの!?」  目の前にやってきた彼は膝に手を当てて荒い息を吐いた。 「ごめん、走ってくる音が聞こえたからもう電車が来るのかと思って」 「なにそれ……追いついてよかった」  顔を上げてまっすぐに僕を見つめる彼と目があった。 「宮崎くん、女の子は大丈夫だったの?  2次会とかあったんじゃ?」 「なかなか離してくれなくて困ったんだけど、佐藤くんが帰る姿が見えたからトイレって言って抜け出してきた」 「イケメンは大変だね」  心の底からそう思って口にすると悲しそうな顔をした。 「僕自分に全然自信がなくて、でもどうしても君にふさわしい男になりたくてずっと自分磨き頑張ったんだ」 「どういう事?」 「高校の時からずっと好きです  僕と付き合ってくれませんか?」  突然の告白に頭の中はその言葉を瞬時に理解できなくてフリーズする。 「ごめん、男の僕からこんな事言われて気持ち悪いよね。でもどうしても伝えたくて」 「いや……僕も好きだから嬉しい」  思わず口から出た言葉を理解して顔が赤くなる。  自然と言ってしまった。 「本当に!?嘘、夢みたいだ」  キラキラスマイルを向けられて倒れそうになる。 「一生大切にするから、佐藤くんのことを絶対に幸せにする。  はっ、プロポーズみたいなこと言っちゃった。  どうしよう、恥ずかしい」  顔を覆って恥ずかしがる宮崎くん。  落ち込んでいた僕はそんな事を言われるなんて思いもしなくて涙腺が緩んだ。  グスッと鼻を啜る音が聞こえたのか、慌てて彼がこちらを見た。 「佐藤くん、どうしたの? 泣かないで」  僕の涙を指で拭ってくれた。  その指をジッと見つめて「ダメダメ」と首を振っている。  何に対して「ダメダメ」と言っているのか分からず、ジッと見つめていると「舐めたいとか思ってないから」と焦ったように彼が言った。 「舐めたいの……?」 「本当は舐めたい」  そういうものなんだろうか?  僕も彼の涙を舐めたいと思ったりするのかな?  考えた事もなかったから分からない。 「別にいいけど……」 「ここで!?」 「うん。そうだけど」 「それはちょっと人がいるし」 「指でしょ?」 「……あぁ、そっちか」 「ん?? どこだと思ったの?」  手を引かれて人から見えない場所に連れて行かれて目尻を舐められた。 「こっち」と囁いた彼の表情は驚くほどに色っぽくてドキリとしてしまう。 「あんまりかわいい顔しないでね  襲いたくなっちゃうから」  本当に彼は僕の知ってる宮崎くんなのだろうか。  こんな事するような子じゃなかったはずなのにと雄の顔をした宮崎くんに戸惑いを隠せない。 「佐藤くん、僕と付き合ってくれるって事でいいのかな……?」  その問いかけに僕は一瞬迷いを見せたものの、やっぱりずっと忘れられなかった人だしと思って頷いた。  喜ぶ彼は僕をきつく抱きしめた。  23歳の春、彼氏いない歴=年齢の僕に顔面国宝級イケメンの彼氏ができた。
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