嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

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 途方もないことだが、今、リアリムに繋がることは何でもしなければ。彼女がいなくなってから、三つ目の夜が訪れようとしていた。 「リアちゃん、気分はどうかしら?」 「メイティーラさん、ありがとうございます。はい、とても良くなりました」  街道で意識を失っていた私を助けてくれたのは、この花の都に住むゴウ侯爵夫妻であった。たまたま、王都に用事があったため、帰る途中で私を見つけてくれた。  服装が上等なものを着ていたため、私が貴族の娘と判断したゴウ侯爵は、馬車を急がせて花の都に戻った。  拾った私に大きな外傷はなかったが、右足が尋常でなく腫れていた。あと、手や顔にも擦り傷がある。 医者に見てもらうと、足の骨は折れていないようなので、結局のところゴウ侯爵夫妻の邸宅で静養することになった。  だが、なかなか目が覚めない。途中、熱も出てきてうなされてきたため、寝間着に着替えさせたり身体を拭いてくれたりしたようだ。本当に感謝しかない。 ゴウ侯爵夫妻が拾ってくれたことで、私は人目につくことがなかった。貴族の娘が供もつけず道端で意識を失っていたとなると、さすがに生家まで責任を問われることになるだろう。 それは、私自身の醜聞にもなる。そのことを思い、ゴウ侯爵夫妻は私のような娘を拾ったことを外に漏らさないようにしてくれた。  さらに侯爵の妻であるメイティーラさんが、きめ細かく私の世話をしてくださることで、私は安心することができた。  目覚めた直後に泣いてしまったが、それからは泣いていない。  メイティーラさんは、私がなぜあそこに倒れていたのか、そのことについては詳しく聞いてこなかった。 ただ、心配されているだろうから、家族のことを教えてほしいと言われたけれど、 「その、家族にも知らせたくなくて。しばらく、しばらくいさせてください」  そう答えると、何か事情があるのだろうと察してくれた彼女は、私の本当の名前をも聞かず、愛称のリア、だけで過ごすことを許してくれた。  私は、ウィルと少し離れていたかった。少し。本当に、ほんの少し。  足の腫れもひいてきて、そろりそろりと動けるようになってきた。目覚めてから既に3日も世話になっている。 「リアさん。もし出来れば、話せる限りで事情を教えてくれないかな。何か、力になれるかもしれないよ」  寡黙なグレン・ゴウ侯爵は私のベッドサイドに来て、そう尋ねた。メイティーラさんも一緒にいて、夫がいない方が良ければ、私にだけでも話して欲しい。と聞いてくれた。  後で聞いたところ、この時には私を探すための通知が出ていたようだ。それを聞いたゴウ侯爵が、桃色の髪の女性ということで私ではないか、と思ったようだ。 「はい、わかりました。えぇ、私の父は伯爵で、私はリアリム・ミンストンと申します」  事情を簡単に話す。市場で攫われたこと。気が付いたら馬車から降ろされ、森の中に置いて行かれたこと。その時に足をくじいたことや、街道に出た途端、意識を失ったことなど、  だけど、しばらく家族に伝えないで欲しい、と伝えた理由までは、言えなかった。  この三日間、ベッドの中にいた私は静かに考えて、自分の気持ちと向き合ったのだ。そしてその答えを、彼に直接、伝えようと思ったのだ。 ―――もう、逃げない。 「ウィル。お前、大丈夫か?」  連日の捜索を行っていても、リアリムは見つからない。攫った男は、その甥という少年も連れていたというが、男に誘拐することを依頼した男が見つからない。  王宮から、偽の情報を流した者も、どうやら同じ風貌の男に依頼されていた。男の身元は、それは巧妙に隠されていた。  要するに、行き詰っていた。リアリムが生きている証拠だけでも見つけたい、最悪、遺体でも。  そう考えていると、慌ててやってきたディリスが、心配そうに俺の顔を覗き込む。 「ディリスか、あぁ、大丈夫だ。今少し、寝たからな」  浅くしか眠れない俺が、もはや昼間に短く休むためのものとなったソファーから身体を起こす。 「どうした。何か連絡でもあったのか?」 「ウィル、花の都にいるグレン・ゴウ侯爵から手紙がわが伯爵家に届いた」 「グレン・ゴウ侯爵? あの、ゴウ侯爵か?」  ゴウ侯爵は、無口で無表情、無駄なことをしない三無し男で有名だ。その彼が、何をミンストン伯爵に伝えるというのか、もしかして。 「ウィル、これを読むと、妹は彼のところで養生しているようだ」 「ディリス!」  俺は立ち上がると、ディリスから手紙を奪い取るようにしてそれを読む。確かに、リアリムが攫われた日にあの街道で女性を助けたとある。そして、その特徴から、リアリムと推察されるようだとあった。
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