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「おや、私のことをそんな風に言ってくれるなんて、嬉しいですね」
突然、後ろから男性の声が聞こえてくる。
発言の内容からすると、もしかして――
ギギギ、と顔を後ろに向けるとそこにいたのは銀色の髪を風になびかせて、腕を組みながらにっこりと笑うウィルストン第一王子殿下、その人だった。
「ひっ」
思わず顔を引きつらせてしまう。あまりの驚きに、心臓が壊れそうにドキドキしている。
「で、殿下、なぜここに」
思わず呟いてしまう。そんな私をアメジストの瞳が真っすぐに見つめていた。
「確か君は、ミンストン伯爵令嬢、かな?」
「は、はい。リアリム・ミンストンと申します、殿下」
きちんと向き合って、スカートの端を持ち上げてお辞儀をする。恐れ多いから顔を上げることができない。
「あ、そんなにかしこまらなくていいよ、顔を上げて」
にっこりと微笑む王子様は、まるで後光がさしているようだ。あ、髪が輝いているだけだ。
「先程の君の言葉、嬉しいよ。早速だけど、今度王宮で開かれるお茶会に君も参加して欲しいな。招待状を送らせてもらうね」
「へ?」
間抜けな顔をして返事をする。あれ?先程の私の言葉って?確か、、王子はイザベラ様に相応しいって言わなきゃって――
うわわわわ!王子を褒めただけで、最後の肝心の言葉を言っていない!
これでは、まるで私が王子を好きで、結婚相手として最高と言っているようなものだ。
周囲にいる令嬢達は、顔を少し青ざめさせている。肝心のイザベラ様も、手をわなわなとさせて扇が震えている、、マズイ!
「あ、あの、私の先ほどの発言は、実は」
「私を拒否する言葉は聞きたくないな、リアリム嬢」
私が言おうとしていることなど、わかりきった顔をした王子は先手を打ってきた。ついでに私の顎をちょっと持ち上げて、口角をくっと上げて楽しそうに笑っている。
「こうしてみると、君の瞳は面白い色をしているね。深い紺色のようだが、日に当たると水色に変わる」
不思議そうな顔をしながら、まっすぐに私の瞳を見つめるウィルストン王子。お願いだから、もう離れてください。あぁ、こんな近い距離で会話するなんて。イザベラ様の怒りが恐ろしい。
「ウィルストン殿下。リアリムさんを揶揄いすぎですわ」
突然現れたウィルストン王子を諫めるように、イザベラ様が止めてくださる。
その調子で、私のお茶会への招待も止めて欲しい。
恐る恐るイザベラ様をみると、顔は微笑んでいるが絶対に笑っていない。
「あぁ、スコット公爵令嬢。心配には及ばないよ。先ほど熱烈な告白を受けたから、私はただお茶会に招いているだけだから、ね」
そう言った王子は、ようやく私の顎から手を離した。
もう、さっきから心臓がバクバクしている。
「君にも、宰相が招待状を送ったと聞いているよ。当日は、君の友人のリアリム嬢と一緒に来て欲しいな」
王子がにっこりと微笑むと、周囲にいた令嬢達が「はうぅっ」と頬を赤く染める。
が、私は反対に青ざめる。あの顔は全然笑っていない。私と同じ、仮面の微笑みだ。
「では、また。お茶会を楽しみにしているよ、リアリム嬢」
茫然としている私に、今度は狙いを定めた獣のような鋭い眼をした王子が見つめてきた。
「はっ、はいぃぃ、、」
誰か、この状況を教えて欲しい。というか、時を戻して欲しい。
私はただ、イザベラ様に王子様がぴったりだと言いたかっただけで、私はちっとも王子様を好きではない。
間違っても憧れてもいない。
あの言葉は嘘なんです。ほんと、全て忘れていただきたいけど、、もう遅い。
王子様が去った後で、イザベラ様をチラッと見ると、やはり、悔しそうに顔を少し歪めている。
ああ、最悪だ。彼女を怒らせてしまった。
「イ、イザベラ様。あの、私、王宮のお茶会は遠慮させていただきますので」
こうなったら、お茶会は辞退する方向で。当日に具合が悪くなってもいい。
「いえ、リアリムさん。こうなったら貴方にも来てもらいたいわ。友人の私が傍にいれば、大丈夫でしょう?」
あああ、イザベラ様。そのお顔は、にっこりされていても腹の中は正反対ですね。
でもって、ここで私が行かないと、いかにもイザベラ様が邪魔をしたように思われるので、行かないといけないのですね。はい、わかりました。
「えぇ、イザベラ様とご一緒なら、心強いです。もちろん、イザベラ様の美貌に叶う方などおられないので、私もにぎやかしとして参加させていただきます」
こうなったら、腰ぎんちゃくの力を発揮しよう!
イザベラ様を持ち上げて、褒め要員となるのだ、私!
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