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「正直申しますと、今は距離をとりたいのですが、決心がつきません。殿下を好いている思いがあるのも、本当です。後は、私の覚悟なのかと。それが、とても難しいのですが」
思わず下を向いてしまうが、そんな私の顔を覗き込むようにして、チャーリー様は私の手をとった
「リアリム嬢、無理をしないで、私を頼ってくださってもいいのです。その、将来のことが心配なら、私が責任を持ちますので、どうか」
「えっ、責任って、チャーリー様」
言葉の意味を考えると、まるで求婚されているようだ。
チャーリー様は、握った手を更に強く握りしめようとすると、またバチバチっと火花が散る。
「痛いっ」
私は叫んで、思わず手を離してしまう。ディリスお兄様の時と同じだ。まるで、好意を持って近づいてくる男性を跳ね除ける魔法にかかっているようだ。
「あっ、これ、もしかして」
また、熱をもっているピアスを触る。あの時も、このピアスが暖かくなっていた。
「魔法石のピアスですか、殿下もやりますね」
一瞬、睨むようにピアスを見つめるチャーリー様。怖い、と思ったけれど、私の方を向いた時は、いつものように穏やかな顔になっていた。
「リアリム嬢、きっと、このピアスの魔法でしょうね。貴方に近寄る男性を許さない、そんな執念を感じる魔法ですよ、それは。まぁ殿下らしいといえば、そうなのでしょうが」
最後の方はよく聞き取れなかったが、とにかくウィルストン殿下のくれたピアスは、また私を守ってくれたようだ。
「すみません、時間になりますので、行きますね。その、ご提案はありがとうございます。でも、今は屋敷にいますので大丈夫です」
チャーリー様に断りを告げると、彼も「そうですか」と一瞬悲しそうな顔をしたが、その後は普段と同じように、応えてくれた。
私は急いでアトリエを目指す。これ以上、チャーリー様の顔をみていられなかったからだ。こんな、告白めいた言葉を聞いて、私は自分に「勘違いするな」と念じながら、廊下を進んでいった。
「ユウ君! 来たよ!」
時間を少し遅れて、ユウ君のアトリエに到着する。
「あぁ、リア。丁度良かった、そこに座って」
もう、絵はほとんど完成しているから、今日は最後のポージング。着替えないで光の当たり具合による陰影を確認すると、ユウ君は「ありがとう、とりあえず今回はここまでかな」と言って、私にソファーに座るように促した。
「何か飲む? 疲れただろ?」
今日でとりあえず最後ということなので、二人でお祝いしようと冷えたエールをいただく。
「か・ん・ぱ~い! ウェ~イ!」
カチャン、とグラスをぶつけ合う。こうした風習はこの世界にないので、久しぶりだ。
「んんっ、美味し~い!」
ゴクッと飲むと、冷たい喉越しが気持ちいい。そうだ、かつては悩むことがあると、女友達とこうして飲み会をしていた。
そのことを思い出すと、つい恋愛話をしたくなってしまう。
「ねぇねぇ、ユウ君、どう思う?」
私はディリスお兄様からの「兄と呼ぶな」発言に、チャーリー様の「責任をとります」発言について、かいつまんで説明をした。
私のつたない説明を聞いてくれるユウ君。でも、途中で「パねぇ」とか、「ウケるwww」とか、声が聞こえてくるのは何故だろう。
「リア、すっげぇ興奮して来た! やっぱマジかっけぇ!」
「ユウ君? どうしたの?」
一通り話終わると、ユウ君は頬を赤らめて話し始めた。
「リア、この前の夜会で、イザベラ嬢にワインかけられただろう? あれ、分岐イベントだったんだよ!」
「えっ、それって、ゲームのイベントってこと?」
「そう! で、いろいろと選択肢がある中で、リアが選んだのは【イザベラ嬢にワインをかける】だったろ?」
「う、うん。そうだったね、それは、反省しているけど」
すっと立ち上がったユウ君。手に拳をつくっている。
「リア、それって、ハーレムエンドなんだよ! ハーレム!」
「ハ、ハーレム? そ、それって、」
「そう! リア! 攻略対象を全部落としたってこと! パねぇ、まじ、かっけぇぇぇ~」
よしっ、と掛け声をかけて喜んでいる姿を見て、私は口を開けてポカーンとしてしまう。
「リア! 僕も入れたら4人攻略だよ、ちょ~いい!」
ちょ、ちょっと待って欲しい。私は初めから平凡な結婚がしたいだけで、複数の相手を持つような爛れた生活がしたいわけではない。
情熱的な騎士のディリスお兄様に、冷静沈着な側近のチャーリー様。おちゃめな癒し系のユゥベール殿下に、典型的な王子様キャラのウィルストン殿下。
それぞれが魅力的な人たちで、誰と結婚しても幸せな道が開けそうだけど、同時は違う。
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