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「ユウ君、もうっ、私はそんなこと望んでいないのっ!」
「リア、なんで? 勿体ないじゃん、それぞれの性癖がすっげぇ面白いんだけど。チャーリーは足フェチで、兄上はオッパイフェチ、ディリスなんて、SM好きだぜ? あ、僕はおしりフェチだから、そっちを開発したいけど」
さっ、最悪だっ、ここに変態がいた。そしてその性癖情報はいらない。私はユウ君に向かって叫んでしまう。
「もうっ、ユウ君なんて最悪! そんなこと言うユウ君なんて大っ嫌い!」
私は怒りのままにアトリエから飛び出して、そのまま王宮の外まで出てしまった。
いつものように、ユウ君の用意してくれた馬車に乗るのが嫌で、思わず私は街へ出る定期馬車に乗り込んだ。
後に、この行動により混乱を引き起こすことになるとは、思いもしなかった。
部下から報告を受けたチャーリーが、顔を青くする。
「どうした、チャーリー。何か不測の事態でも起こったか」
このところ、第一王子としての執務室に籠り切りだ。陛下から回される仕事が多いこともあるが、何かに集中していたかった。
「殿下、リアリム嬢が、昨日から行方不明となっています。付けていた影が襲撃され、意識を失っていたため報告が遅れたようです」
「なにっ、どういうことだ? リアリムは伯爵邸にいるハズだろう!」
ディリスを通じて、外出しないように依頼していたのだ。あのイザベラ嬢とのやり取りを考えると、スコット公爵から何かしら仕掛けてくる可能性があった。
「ですが、昨日王宮に来ていました。ユゥベール殿下のアトリエに用事があると。その後、どうやら定期馬車に乗り、王宮を出られたようです」
「何だと! よりによって定期馬車に乗るなど」
主に王宮で働く平民が使う定期馬車、それは王都の中心地と王宮を1日に何回も往復している。誰が乗っていたのか、そしてどこで降りたのか、足取りが掴みにくい。
「それで、どこで影は襲撃されたのだ」
「はいっ、どうやらリアリム嬢はマルーク市場の近くで馬車を降りられたそうです。後をつけていた影によると、人混みの中でリアリム嬢を攫う者がいたので救出に向かったところ、後ろから襲撃されたとのことでした」
「よりによって、マルーク市場か。それで、なぜ報告が今日になったのだ」
「はいっ、どうやらミンストン伯爵邸では、王宮からリアリム嬢の宿泊についての連絡が王宮からあったと。そのため、帰宅されなかったのですが不思議に思われなかったようです」
俺は机をドンっと叩く。聞けば、行方がわからなくなってから既に丸1日が経っている。
「リアリム、なんということだ」
胸が張り裂けそうになる。1日、もう1日も経っているとは。一瞬、もう既に命を失っているかもしれない、という恐ろしい考えが頭をよぎる。
「スコット公爵の方はどうだ、動きがあるか?」
念のために、公爵家にも影を走らせていた。だが、特に変わった動きはないと言う。
「王宮からの連絡を偽装した者は、見つかったか?」
「はい、ただ、伝言ゲームのようになっているのですが、今洗っているところです」
「見つけ次第、直ちに知らせろ」
俺は一旦自分を落ち着かせるために、水を飲もうとコップをとる。ゴクリと飲むと、少し生ぬるい。
マルーク市場、一緒に歩いたところだ。リアリムは何を考えて、一人でそんなところに行っていたのか。
あそこは、各地方に向かう馬車の発着場でもある。そのため、そこからの足取りを掴むことが非常に難しい。
リアリム、無事でいてくれ。俺のことを嫌ってもいい、頼むから生きていて欲しい。
そんな身を引き裂かれるような思いに駆られた俺は、とにかく現場の確認と思い剣を握る。
「馬を用意しろっ。あと、ディリスを呼べ」
俺は命令を下すと、まずは最後に会っていたはずのユゥベールの所へ向かった。
「えっ、リアが攫われた?」
「そうだ、お前何か知っているか? 昨日、最後に会った時、普段と違った状態ではなかったのか?」
影からの報告では、リアリムはアトリエから飛び出して、走って行ったという。尋常な状態ではない。何があったのか、ことの次第ではユゥベールを縛り上げる覚悟でここに来た。
だが、普段と同じようにアトリエで絵に向かう彼は、この部屋を出た後のことは何も知らないという。
「でも、僕リアを怒らせてしまったんだ、兄上」
「何があった。彼女を怒らせるなど、俺の記憶では、滅多なことでは怒るようなことはなかった」
「うん、わかってるよ。リアは、考えなしのようで、いろいろと考えているから。その、僕が悪かったんだ」
「お前、何かしたのか? 俺の許しを得ず、彼女に触れたのか?」
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