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共にいるディリスも不安に思っているだろうが、消えた場所からの目撃情報が少なすぎる。各地に向かう馬車が常に出入りしているから、どの方向にリアリムを乗せたであろう馬車が向かったか、わからない。
めぼしい情報でもあれば、がむしゃらに馬を走らせるのに、今はこうして、ただ情報を待つしかない。
「あぁ、判断力が鈍るからな」
そうは言っても、さすがに寝室に行く気にはなれない。騎士団控室のソファーに横になると、思い浮かぶのは最後に見たリアリムの姿だ。
「ディリス、あの夜、リアリムは泣いていたか」
「あぁ? あー、あの日か、まぁな。あの女を怒らせたのは自分だと、悔いていたな。まぁ俺としては、あのくらいしないと、あの女の後ろにいた過去と決別できないだろうからな。いい機会だったと思うが」
「そうか、俺はリアリムを守れなかった。情けないな」
「……」
ディリスは黙って、そのまま武器の手入れを始めた。こうして、彼に自分の弱さを口にするのも、思えば初めてなのかもしれない。
「お前は、少し寝ていろ。休むのも仕事だ」
カチャリ、カチャリと鉄が重なる音がする。ここは武器に使われる鋼鉄の匂いがする。ディリスの言う通り、休むことも大切だ。そうして、しばらく仮眠をとっていると、その間にディリス宛に連絡が届いた。
「ウィル、起きろっ、ウィル」
肩を揺らされ、目を開けるとディリスが必死な顔をしている。短い午睡であったが、十分に休むことが出来た。頭はかなりスッキリしている。
「どうした、何かわかったか」
「あぁ、マルーン市場でリアリムを攫った奴を拘束した。どうやら、市場で知られているごろつきだったようだ」
「なにっ、もう捕まえたのかっ」
「あぁ、昨日の粉屋の女将さん達が、すぐに情報を集めてくれていた。怪しい男がいるとのことで、さっき俺が確認に行ったが、すでに市場の自警団が捕らえていた」
ガバッと起き上がると、俺は叫ぶように問いかける。
「それでっ、リアリムは? 無事か?」
俺の視線を逸らすように、ディリスは少し俯いた。
「それが、男はリアリムを街道沿いの、森の中に捨てたと言っている」
「なにっ、どこだ?」
興奮する俺を諫めるように、ディリスは簡潔に話をする。
「ウィル、彼はリアリムの手と口は縛っていたようだが、足は縛っていなかった。まずは、その捨てたという場所に行こう」
「わかった。それで、そいつらは誰の命令なのか吐いたのか?」
「それはまだだ。まずは、彼女を見つけるためことを優先した。行こう、まだ日は高い」
「そうだな」
さっと立ち上がり、俺は外套を羽織る。携帯する武器を確認すると、ディリスと共に自警団の詰所に向かう。
リアリム、頼むから無事でいてくれ。もう既に二日経っていることが気にかかる。焦る気持ちを抑えながら、俺は向かう先に急いだ。
リアリムを攫った男は、普段はみかけない男に頼まれた、とだけ答えた。その男はリアリムについていた影を襲撃し、その際の戦いで負った怪我のために、リアリムを捨てた現場にはいなかったという。
「で、ここでお前はリアリムを降ろしたのだな」
ディリスが縛り上げた男を、低い声を出しながら尋問する。
「あ、あぁ、こ、ここだ。この倒れている木の近くに馬車を停めた」
そこは王都から馬車であれば2時間ほど離れた森の中を通る街道沿いだ。
「それから、この奥に入って、そこに置いた。俺は、何も乱暴もしていない、本当だ、」
実際に捨てたと言われる場所に行くと、そこには手と口を縛っていたであろうロープが落ちていた。切り口は何か刃物で切ったようにシャープだ。
「まさか、お、俺のナイフ、な、何もしていない、ちょっと脅そうと思っただけだ、そしたら、バチっとはじかれて、それで、そのまま置いてきた」
「そうか、お前は弾かれたか」
と、いうことは。こいつはリアリムを襲うつもりで近づいたということか。ナイフで服を割こうとでもしたのだろう。
ロープには、血の跡もついていた。きっと、ロープを切る時に肌も切ってしまったのだろう。不幸中の幸いと言うべきか、手足も自由となったリアリムは、街道を目指して歩いたように、足跡が残っていた。
リアリムが折ったのだろか、街道に出るのを案内するように、所々目印のように枝が折られていた。
だが、街道にはリアリムがいた痕跡がなかった。
もしかすると、ここから連れ去られた可能性がある。この街道は王都と南にある花の都を結ぶ主要な街道だ。頻繁に馬車が通るところでもある。
「リア、どこにいるんだ、俺は」
ここまで来たというのに、何も得ることができない。森の中を探す捜索隊も編成するが、同時にこの街道を通った馬車を探さなければ。
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