嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

46/58
前へ
/58ページ
次へ
 共にいるディリスも不安に思っているだろうが、消えた場所からの目撃情報が少なすぎる。各地に向かう馬車が常に出入りしているから、どの方向にリアリムを乗せたであろう馬車が向かったか、わからない。  めぼしい情報でもあれば、がむしゃらに馬を走らせるのに、今はこうして、ただ情報を待つしかない。 「あぁ、判断力が鈍るからな」  そうは言っても、さすがに寝室に行く気にはなれない。騎士団控室のソファーに横になると、思い浮かぶのは最後に見たリアリムの姿だ。 「ディリス、あの夜、リアリムは泣いていたか」 「あぁ? あー、あの日か、まぁな。あの女を怒らせたのは自分だと、悔いていたな。まぁ俺としては、あのくらいしないと、あの女の後ろにいた過去と決別できないだろうからな。いい機会だったと思うが」 「そうか、俺はリアリムを守れなかった。情けないな」 「……」  ディリスは黙って、そのまま武器の手入れを始めた。こうして、彼に自分の弱さを口にするのも、思えば初めてなのかもしれない。 「お前は、少し寝ていろ。休むのも仕事だ」  カチャリ、カチャリと鉄が重なる音がする。ここは武器に使われる鋼鉄の匂いがする。ディリスの言う通り、休むことも大切だ。そうして、しばらく仮眠をとっていると、その間にディリス宛に連絡が届いた。 「ウィル、起きろっ、ウィル」  肩を揺らされ、目を開けるとディリスが必死な顔をしている。短い午睡であったが、十分に休むことが出来た。頭はかなりスッキリしている。 「どうした、何かわかったか」 「あぁ、マルーン市場でリアリムを攫った奴を拘束した。どうやら、市場で知られているごろつきだったようだ」 「なにっ、もう捕まえたのかっ」 「あぁ、昨日の粉屋の女将さん達が、すぐに情報を集めてくれていた。怪しい男がいるとのことで、さっき俺が確認に行ったが、すでに市場の自警団が捕らえていた」  ガバッと起き上がると、俺は叫ぶように問いかける。 「それでっ、リアリムは? 無事か?」  俺の視線を逸らすように、ディリスは少し俯いた。 「それが、男はリアリムを街道沿いの、森の中に捨てたと言っている」 「なにっ、どこだ?」  興奮する俺を諫めるように、ディリスは簡潔に話をする。 「ウィル、彼はリアリムの手と口は縛っていたようだが、足は縛っていなかった。まずは、その捨てたという場所に行こう」 「わかった。それで、そいつらは誰の命令なのか吐いたのか?」 「それはまだだ。まずは、彼女を見つけるためことを優先した。行こう、まだ日は高い」 「そうだな」  さっと立ち上がり、俺は外套を羽織る。携帯する武器を確認すると、ディリスと共に自警団の詰所に向かう。 リアリム、頼むから無事でいてくれ。もう既に二日経っていることが気にかかる。焦る気持ちを抑えながら、俺は向かう先に急いだ。  リアリムを攫った男は、普段はみかけない男に頼まれた、とだけ答えた。その男はリアリムについていた影を襲撃し、その際の戦いで負った怪我のために、リアリムを捨てた現場にはいなかったという。 「で、ここでお前はリアリムを降ろしたのだな」  ディリスが縛り上げた男を、低い声を出しながら尋問する。 「あ、あぁ、こ、ここだ。この倒れている木の近くに馬車を停めた」  そこは王都から馬車であれば2時間ほど離れた森の中を通る街道沿いだ。 「それから、この奥に入って、そこに置いた。俺は、何も乱暴もしていない、本当だ、」  実際に捨てたと言われる場所に行くと、そこには手と口を縛っていたであろうロープが落ちていた。切り口は何か刃物で切ったようにシャープだ。 「まさか、お、俺のナイフ、な、何もしていない、ちょっと脅そうと思っただけだ、そしたら、バチっとはじかれて、それで、そのまま置いてきた」 「そうか、お前は弾かれたか」  と、いうことは。こいつはリアリムを襲うつもりで近づいたということか。ナイフで服を割こうとでもしたのだろう。  ロープには、血の跡もついていた。きっと、ロープを切る時に肌も切ってしまったのだろう。不幸中の幸いと言うべきか、手足も自由となったリアリムは、街道を目指して歩いたように、足跡が残っていた。  リアリムが折ったのだろか、街道に出るのを案内するように、所々目印のように枝が折られていた。  だが、街道にはリアリムがいた痕跡がなかった。  もしかすると、ここから連れ去られた可能性がある。この街道は王都と南にある花の都を結ぶ主要な街道だ。頻繁に馬車が通るところでもある。 「リア、どこにいるんだ、俺は」  ここまで来たというのに、何も得ることができない。森の中を探す捜索隊も編成するが、同時にこの街道を通った馬車を探さなければ。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

125人が本棚に入れています
本棚に追加