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伺うように瞳を揺らして、私に問う。今までの強気な彼とは違う。
うん、と頷くと、彼の暖かい唇が私の唇の上に重なった。その優しいキスは、王宮でウィルストン殿下の彼としたものと重なった。
やっぱり、彼はウィルストン殿下なのだ。
音もたてず、唇が離れる。それでも瞳をそらすことは出来ない。
「君の話を、聞かせて欲しい。この前、俺は話を聞かない男だと叱られたから、ね、」
ウィルティム様は少し瞳を細めて、私を優しく包み込んでくれた。
私は、王宮を飛び出した後のことを彼に説明した。特に、男と共にいた少年のおかげで私は街道にでることが出来たから、そのことを特に強調しておいた。
私を拾ってくれたゴウ侯爵夫妻のことも、こうしてお医者様の手当てを受けて、快適に過ごしていたことも。
ウィルは静かに一つ一つ、私の言葉を漏らさないように聞いてくれる。
そして最後に、私は一つ我儘を彼に言った。
花の咲き誇るこの花の都には、お祭りの日が近づいていた。この都には、あるハレンチな言い伝えが残っている。
昔、騎士様がお仕えする、美しいお嬢様に愛を伝えるため、お祭りの日にいやらしいパンツを贈った。花や宝石といったありふれたプレゼントの中から、一風変わったパンツのプレゼントを喜ばれたお嬢様は、騎士様と恋人になったという。
それ以来、お祭りの日にパンツを贈り、それを受け取ると恋人になる、という風習が生まれた。
女性であれば、ボクサーパンツを。男性であれば、女性用パンツを贈る。買いに行くのも恥ずかしいが、それを乗り越えることこそが、愛の証明として盛り上がる。
もちろん、恋人同士であればいやらしいパンツも贈りあうし、縁起がいいからプロポーズの日としても有名だ。
3日後はそのお祭りの日だった。メイティーラからお祭りの話を聞いたリアリムは、ウィルティムにその日まで約束の恋人関係を続けて欲しい、とお願いをした。
「あの、もちろん忙しいのは知っているんですが、その日を恋人同士の期限にしてください」
このお祭りの話を聞いてから、うずうずしてしまう。メイティーラさん達も、このお祭りの日に二人の仲が進展したという。
なんてロマンチック! その日にもう一度、私の気持ちをウィルティム様に、ウィルストン殿下に伝えようと思ったのだ。
それに、転生した記憶のことも伝えよう。こんな変な記憶のある私と結婚なんて、やっぱり嫌がるかもしれない。そうしたら、もう、一緒にいることはできない。
それに、私たちは今まで恋人らしいことをあまりしていない。1日デートしただけで、もっと恋人らしいことをしてみたかった。
「リアリム、そうか。うん、いいよ。わかった、何とかしよう」
そう言ったウィルティム様は、「では、ちょっと用意してくるよ」と言って、一旦外出された。私の無事を伝えることや、宿泊先を整えてくると言っていた。
「あら、お泊りになるなら、我が家に泊っていただければ良かったのに」
メイティーラ様は、ウィルティム様がしばらくこの都に滞在すると聞いて、ありがたくも部屋を提供してくれると言ってくれた。
でも、本当は第一王子だから、護衛の方とかいろいろとあるのかもしれない。この都にも王族用の邸宅があると言っていたから、そちらを使うのだろう。
お祭りの日まで一緒にいたいなんて、無理、言っちゃったかな。
でも、きっと王都に帰ったら私たちの関係は変わる。その前に、ただの騎士であるウィルティム様の恋人として過ごしたかった。
「リア、用意が整ったよ。さぁ、移動しよう」
「えっ、私もですか?」
戻って来たウィルティム様は、なんと私もこのゴウ侯爵邸を出て、一緒に王族用の邸宅に移動しようと言って来た。
「侯爵夫妻、リアリムがお世話になりました。これからは私の方で、看病したいと思います」
彼は身なりを整えて、きっちりとした騎士の制服を着て侯爵邸に再び現れてすぐに、ゴウ侯爵に挨拶をしたのだ。
「リアリム嬢、こちらはいつまでも大丈夫だが、婚約者の方がそう言われているのであれば、そちらの邸宅に移ることも出来るが、どうしたいか言って欲しい」
侯爵に問われると、私は迷わずに「ウィルティム様の邸宅に移ります」と答えた。彼と一緒にいられる時間は、長いようで短い。一緒に過ごすことができるのであれば、その方が嬉しい。
「そうか、寂しくなるね。でも、またいつでも来て欲しい」
数日間であったが、お世話になったゴウ侯爵夫妻に別れの挨拶をする。
元々、街道に倒れていたのを運び込まれた私だったから、荷物など何もない。
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