幼馴染み

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 それからは気まずくて大ちゃんと一回も顔を合わせなかった。  そしてとうとう大ちゃんが引っ越しする日になってしまった。  私はお腹が痛いと嘘をつき、見送りに行かなかった。  すると見送りに行った筈の母がズカズカと部屋に入ってきて、ベットに潜り込んだ私の布団を剥ぎ取った。 『結衣、いい加減にしなさいよっ大輔君行っちゃうわよ、いいの?』 『お腹痛いもんしょうがないでしょ』 『せめて大輔君に渡す物はないの?』 『ないっ』 『ないって結衣、そんな薄情な子だったの?お母さんはあなたをそんな風に育てた覚えはない…』 『うるさいなっ』    私は起き上がり、自分の机の引き出しを開けた。 『お母さんが渡しといて』    私は母に事前に準備してあった手紙と折り紙で作ったくす玉を無理矢理押し付けた。  母はそれを見て拍子抜けした顔になった。 『何、用意してたんじゃない。なら結衣が直接渡せばいいでしょ』 『お腹痛いって言ったじゃん』 『大輔君とケンカでもしたの?』 『してない!』  ケンカどころか顔も見たくないと言われたのだ。自分が撒いた種だが。  母はため息を付いてそれを持ったまま部屋を出て行った。  しばらくして母が戻って来た。 『大輔君ありがとうって。結衣、直接渡せば良かったのに…』  私は布団を被ったまま返事もしなかった。  そりゃあお母さんとおばさんたちがいる前ではお礼を言うしかないでしょうよ。きっと後で手紙だって読まずに破られるだろうし、プレゼントだって捨てられるに決まってる。  大ちゃんのことを弟みたいに大事に思っていたのに、こんな風にお別れするなんて…  こうして大輔とのことは苦い思い出となって終わってしまった。  大ちゃん一家が引っ越した後もお母さんはおばさんとやり取りはしていたみたいだったけど、勿論私と大ちゃんはあれきりだった。  なのに大ちゃん、今更会った私に何であんなに親切だったんだろう。お母さんに頼まれたか知らないけど、嫌なら断ればいいのに…  でも、ここで今のところ頼れるのは大ちゃんしかいない。  有り難いと思うしかないか。  結衣は大輔の態度に戸惑うばかりだった。
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