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思いもよらぬ再会
三月下旬。北川結衣は、緊張した面持ちで、隣のアパートの部屋の前に立った。
結衣はこの四月に新規採用で小学校の教員となる。しかし合格したのは地元の県ではなく、馴染みのないこの市だった。
講師をしながらもう一度地元の県を受け直そうか迷ったが、折角この市で合格したのでここで教師をすることに決めたのだった。
結衣の地元からこの市は遠く、一人暮らしをすることになった。
部屋を探す段階で結衣の母親から提案があった。
実はこの市に住んでいる母の昔からの友人の子が同い年で、結衣と同じくこの市の小学校の教員に新規採用されたという。
更にその彼女の住む予定のアパートがたまたま一部屋空いているらしく、結衣も一緒にどうだとすすめられたのだった。
結衣にはこの市には誰も知り合いがいないので、その話は渡りに船だった。
そして無事に引っ越しが終わり、先に住んでいるという彼女の部屋に引っ越し蕎麦を持って挨拶をしに行くところだった。
表札には「長谷川」とあった。
間違いないよね。お母さんから聞いた名字は長谷川さんだったし、このアパートには長谷川は一人しかいないし…
結衣は緊張しながらインターホンを押した。
すると、突然部屋のドアが開いた。
ドアから出てきたのは同じぐらいの歳の男性だった。
え?あれ?どういうこと?どうして男性が?
「あの、長谷川さんですか?」
思わず結衣はそう聞いてしまった。
「……そうだけど」
「私、隣の部屋に引っ越してきた北川といいます」
「…………」
男性は結衣の顔をじっと見て無言だった。
「えっと、この部屋は女性が住んでいるんじゃ…」
「住んでいるのは俺一人だけど」
え?私、間違えて違う人の部屋を訪ねちゃった?
「す、すみません、私……」
しかし、男性は結衣を見つめたまま言った。
「……お前、結衣だろ」
!?
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