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地球散歩
それから何日かもわからない、名前の無い日々を2人で過ごした。
ゴミと廃材で溢れかえった、灰色の地球を渡り歩く。
時々お互いに思ったことを口に出し合って、微笑を浮かべたりしていた。
人間の馬鹿らしさについて話したり、この世の儚さについて他愛のない議論をしたりした。そんな時間が幾度も、ゆっくりと流れていった。
「生まれてくる時代も種も選べないなんて、なんだかやり切れないですよね」
私は口を開く。
「うーん、まぁそうかもしれないね」
少し遠くを見て、間をおいて、彼は再び言った。
「でも、そうだから成り立っているのかもしれないよね、不公平だけれど」
「そうですね」
また口を閉じる。こんな会話を、一体何回してきただろう。
歩いても歩いても、同じような景色が広がっているだけだった。
崩れ落ちた建物、元道路なのであろう剥がれ落ちた板。泥にまみれて埋もれている戦車。戦いの犠牲になったものたちが、廃材として土の中に在る。
ついこないだまで一緒に戦っていたような、自分と同じような人工生命体もいたるところで潰されて壊され、転がっていた。
人工生命体。それは人間に造られたものではなかったか。
私は人間に造られた機械により、造られた機械だ。人に扮して人間に近づくため。この世界から、人間を消し去るために。
機械に造られたのだから、私は人工の生命体ではないのかもしれない。
それでも元を辿れば人間に行き着く。だから私たち偽造生命体も、人工生命体と呼ばれていたのだろう。
結局、人間がAIなんかを創り出したのが悪いのではないか。
AIの力は、人間の力をはるかに超越していた。
『この世界に、人間などいらない』
これが、AIの結論だ。
人間が気が付いた時には、もう遅かった。
なんて愚かなのだろう。人間は人間の力で、人間を滅ぼしたのだ。
それでも、私には一つの疑問が残っていた。
人間だけにできることが、人間にしか分からないことが、本当に無かったと言えるのだろうか。人間にしかみえない何かが、どこかに存在したのではないか。
人の心を持たない人工生命体が、こんな変なことを思うのはおかしいのかもしれない。でもやっぱり、そう感じずにはいられなかった。
そんな考えを巡らせていると、隣の彼が声を上げた。
「あーあ、こんなになっちゃうなんてねぇ。」
いつの間にか、大きい建造物が私たちの目の前に立ちはだかっていた。
ぐるっと何かを囲んでいて、集まって何かをするような場所だ。
比較的、現役の頃の面影が残っているように見えた。
「ここは元々劇場だったんだよ」
彼は続けた。
「へぇ、素敵ですね」
「僕の家系は代々ここで働いていたみたいなんだ。僕も継いでみたかったけど」
「そうなんですね」
もっと何かを言った方がよかったのかもしれない。でも今の私には、これが限界だった。
「うん……」
彼は遣る瀬なさを振り切るように一回、首を振った。そしてまた歩き始める。
どこまでも続く、果てしない地球散歩。終わりは一体いつ、やって来るのだろうか。
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