メリーお姉さまが選ばれたのですね

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メリーお姉さまが選ばれたのですね

 そこは、笹舟町と呼ばれていた。  人口はぴったり100人。  笹に溢れた小さな町。  周りを取り囲む先進国に虐げられている、可哀想な町。  特産物の笹芋以外、ろくに食料の取れない寂れた町。  あと数年で、電気の供給が絶たれてしまうお金の無い町。  そんな貧しくて陰気な町に、私と、私の妹は暮らしていた。  恐らく、私の家が町で一番貧乏だった。   「メリーお姉さま!」  駆け込むようにして家に帰ってきたサリーが、後ろから私に抱きついた。  私の可愛い妹だ。  振り返ると、肩まである淡い青色の髪が目に映った。  私の長いピンク色の髪に顔を埋め、愛らしく顔を擦り付けている。 「おかえりサリー。スープできてるよ。お腹空いたでしょ」  私は笹芋を使った水色のスープを器によそった。  笹芋を使った料理は、全部青くなってしまうのだ。 「ありがとうなのです」  屈託のない笑顔を見せ、サリーは跳ねるような足取りで席に着く。  スープの入ったお椀をサリーの目の前に置いた。  私も自分のお椀にスープをよそい、サリーの隣の席に着いた。    椅子もテーブルも、私たち幼い姉妹には少し大きすぎて、食事を取るのに苦労していた。  それでも気にすることなく、サリーは美味しそうにスープをすすってくれる。  両親はいない。  数年前、サリーが生まれたばかりの頃に、父も母も病気で死んでしまった。  物心ついた時には、もう既に私はサリーの面倒を一人でみていた。 「町長さんたちのお話を聞いてきたのです」 「また盗み聞き?」  食事を進めながら興奮したように話すサリー。  年長者の会議を毎日盗み聞きする物好きな妹に、私は心底呆れてしまった。 「今日はとても良いことを聞いてきたのですよ!」  スープを勢いよく飲みほしたサリーは、尚もおさまらない興奮を露わにして話し続ける。 「この町に沢山お金が入るって言ってたのです! これで食べ物も薬もほかの町から買えるし、電気だってずっと貰えるそうですよ!」  無邪気にそう言うサリー。 「そんな都合のいい話がいきなり舞い込んでくるわけないよ。何かの間違いだって」  私は過度な期待をしないように、心を落ち着けてそう返した。 「……どうしてお金が入るの?」  それでも、サリーの話を全否定するわけにもいかない。 「それは……聞いてこなかったのです」  残念そうに肩を落とし、俯くサリー。  子供らしいその大袈裟な仕草に、私は思わず吹き出してしまった。 「でも、本当にお金が沢山この町に入ってきたらいいね」  私がそう言うと、サリーが満面の笑みで頷いた。  だがその直後、サリーは突然咳き込んでしまう。 「うー。風邪だって、薬があればきっとすぐに治っちゃうのですよ」  鼻水を垂らしてそう言うサリー。  私は食器棚付近に置いてあるティッシュボックスをサリーに手渡してあげた。  この町に医者はいない。  だが隣町の医者は、笹舟町を見下しているので、みんな滅多に頼らない。 「ありがとうなのです」  サリーは勢いよく鼻をかみ、掛け声と共にゴミ箱へ丸めたティッシュを投げた。  ティッシュは惜しくもゴミ箱の穴を通り過ぎ、床へふわりと落ちた。 「外してるじゃんか」 「えへへ」  サリーは椅子からぴょんと降りて、無邪気な足取りで床に落ちたティッシュをゴミ箱へと入れ直した。
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