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次の日。
私とサリーが、町の子らと一緒に川で水汲みをしていると、町長がやって来た。
町中のみんなから尊敬されるお婆さんだ。
今年で六十歳になるらしい。
「メリー。大事な話がある。集会場へ来なさい」
町長は私にだけそう言って、早々に背を向け去って行った。
とても冷たい目をしていた。
「メリーお姉さま。何か悪いことしましたのですか?」
町長はいつも優しい雰囲気で、町の子供らに笑顔を向けて町を徘徊している。
だが、今日の町長の態度はまるで、今から子供をきつく叱りつけるかのような形相をしていた。
「……何もしていないと思うけど」
私は、内心そんな町長の様子に怯えていたが、サリーを心配させないため、他の子らにからかわれないため、何でもないような態度を取り繕った。
「……行ってくるね」
小さくそう言って、私はサリーと他の子に手を振った。
サリーは不安げに私を見つめていた。
「そこに座りなさい」
集会場につくと、そこには町長しかいなかった。
普段は何の用もないのに、高齢者のお婆さんお爺さんがたむろして近況報告を延々と行なっているのだが、今この集会場には、私と町長だけ。
「あんたに頼みたいことがあってねえ」
唐突に、町長は話し出した。
「西の方の大陸で最近編み出された手術を受ける気はないかい?」
町長はそう言って部屋のカーテンを閉めた。
「手術?」
私は眉をひそめて聞き返した。
「ストップエージングの手術さ。今、被験者を募っているらしくてねえ」
町長は冷酷な表情のまま、淡々と説明を続ける。
「この町にも、誘いが来たんだよ」
野外では、カラスがけたたましく鳴き声を上げている。
手先が段々と冷えていくのが分かる。
「単刀直入に言うとだね。実験台として名乗り出てくれないかい?」
”実験台”。
その言葉に、私は恐怖した。
「どうして、受けなくちゃいけないの?」
何故私が。
そんな疑問よりも、西の大陸に実験台として誰かを差し出さなくてはならない理由が気になった。
でも、質問してすぐに、昨日サリーから聞いた、町に沢山のお金が入るという話を思い出した。
「一人でも被験者として志願すれば、多額の報酬金が町に入るんだよ。だから、年長者で話し合って、誰か一人に行ってもらおうと結論を出したんだ」
今、町は危機的状況に立たされている。
これは、当然の結論なのだろう。
でも、どうして私に決まったのだろう。
「みんな、自分のとこの笹芋を育てるだけでも精一杯なんだよ。水汲みをしてくれるのは有り難いが、親のいないあんたたちをこれ以上無償で養うのは、町全体の負担なんだよ」
分かっていた。町のみんなに迷惑をかけていることぐらい。
「サリーはまだ、手術を受けられる年齢を満たしていない。あんたが町のために、サリーのために、手術を受けてくれないかい?」
とても悔しかった。
同時に、町の人の好意に甘えていた自分が恥ずかしかった。
でも、もし私のおかげで町にお金が入ったなら、恩返しができると思った。
得体の知れない手術に恐怖を抱いていたのはもちろんだったけど、きっと死ぬわけではない。
話題であった老化を止める技術にも興味があった。
ショックだったのが、町長に、面と向かって邪魔者だと告げられたこと。
他人によって再認識させられるのは、やはり心が痛むものだった。
でもとにかく、サリーが選ばれなくて良かった。
それだけで十分だと、心から思った。
私は、私の太陽を差し出さなくてもいいのだと、心底安心した。
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