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私は手術の被験者になることを承諾した。
私の置かれた状況を考えれば、町長も断るとは微塵も思っていなかっただろう。
断るわけがない。
私だって、自分の立場をわきまえている。
「メリーお姉さまー!」
集会場から出た私は、何となく遠回りをしながら川へと向かっていた。
だが、川につく前に、どこからかサリーの呼び声が聞こえてくる。
「サリー……」
手を振りながら走り寄ってくるサリー。
水汲みは終わったのだろうか。何も持っていない。
私の目の前に来ると、膝に両手を置き、ぜいぜいと呼吸し、数回咳を零した。
「大丈夫? サリー」
私はサリーの背中をさすった。
「大丈夫なのです! でも、今日は日差しが強いのです。水汲みだけで疲れてしまったのです」
咳が治まったサリーは、日差しから目を守るように両手を顔にかざした。
「そうだね。笹の葉で帽子って作れるのかな」
隣の大国では流行りのお洒落な帽子が沢山売られているけど、この町にそんな流行を取り入れる余裕はない。
そもそも私たちに買えるだけのお金もない。
私は額に滲む汗を拭い、サリーの手を握った。
何も言わずに帰路につく。
「そう言えば、何をそんなに急いでいたの?」
私はサリーの手を引きながら、前方に目を向けてそう尋ねた。
なんだかサリーの顔を見ていられない。
「そうなのです! コリンが言ってたのですよ。どうして町にお金が入るのか」
息が、止まりそうになってしまう。
「改造人間を作り出す実験のお手伝いをするそうなのですよ。それでお給料が沢山出るらしいのです」
話がかなり飛躍していて、私はどう言葉を返したら良いのか分からなくなる。
いや、もしかしたら、サリーの言うことが本当で、私はただの使い捨てのネズミとして扱われてしまうのではないか。それが真実なのではないか。
そんな不安が込み上げてきて、町長から聞かされた話を、サリーに言えなくなっていたのかもしれない。
「サリー。私ね、そのお手伝いを頼まれたんだよ」
でも、自分でもびっくりするぐらい、その時の私は冷静な心持ちをしていた。
「すごいのです! メリーお姉さまが選ばれたのですね!」
町の友達にどんな風に話を聞かされたのかは知らないけれど、サリーの目には、とても誇らしい存在として私が映っているらしかった。
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