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運転席は無人だが、バスはスムーズに移動を続ける。
笹舟町を出てから、何回か別の町へバスは停まり、全部で十人ほどの男女が集まった。
その後、どこかの港に着くと、次は大型の船に私たちは乗せられた。
船の中には、さらに多くの男女が既に集められていた。
年齢は様々だったが、子供は非常に少なかった。
「さて、皆さま。被験者として名乗りを上げてくださり、誠に有難うございます。これから、あなた方に受けていただく手術のご説明を致しますので、もう少し前にお寄りください」
白衣を着た大きなゴーグルをした中年男性が、タブレット端末を手に被験者たちを呼び集めた。
「これからあなた方に施す手術は、最新のストップエージング術でございます。脳内にチップを移植する、簡単な手術でございますので、安心してください。手術結果と、一年間の経過データを取らせていただき、終了となります」
既に町長から聞かされた内容だった。
「ただ、情報漏洩防止を徹底するため、ご家族やお知り合いであっても、連絡を取り合うことは原則として禁止させていただきます。ご不便をおかけするかとは思いますが、一年間、どうぞ宜しくお願いいたします」
危険の無い手術。
心配無用。
そう何度も説明された。
周りを見渡すと、皆期待に満ちた目で、白衣の男の話を聞いていた。
不安げな表情をしているは者は誰もいない。
(本当に、安全な手術なんだ。良かった……)
私の緊張は段々とほぐれていった。
その後、食事制限の話や、睡眠時間の話などをされ、その日は終わった。
三日三晩船に揺られ、ようやく目的地の国まで着いた。
「この街は全て、リーブス社の管理下に置かれております。自由時間は、この街の中でなら研究所の外へ出歩いても構いません」
初めて来た海外。
西の大陸。
陸に到着した私たちは、街の中心部にある高層ビルに連れてこられた。
入口の手前から見上げると、首が痛くなってしまうほどに巨大なビルだ。
「さあ皆さま。お入りください。研究員の指示に従って進んでください」
白衣を着た別の男性が入口の奥で待ち構えていた。
その後ろには、黒づくめのガタイの良い男性たちが一列に並んでいる。
「メリーちゃん」
周りの被験者に混じって、幅の広い廊下を進んでいると、不意に女性の声によって呼び止められた。
横を見上げると、そこには軍人のようなユニフォームに身を包んだ、細身の女の人が立っていた。
「何でしょうか」
私は縮こまって答える。
すると、その女の人は優しくにこりと微笑んで、中腰になって視線を合わせてきた。
「こんにちは。私はスミス。メリーちゃんでいいのよね」
スミスと名乗った女性は、私のピンクの髪に視線を向けてそう確認した。
「そうです」
私の声はとても弱々しいものだった。
「メリーちゃんの手術は三日後よ。食事制限や睡眠時間の管理はあるけれど、自分の部屋までの案内が終わったら、今日から手術まで自由に過ごしても大丈夫よ」
スミスは笑顔を絶やすことなく話し続ける。
「でも、十二歳以下の子は一人で出歩けない決まりなの。申し訳ないけど、このビルから出るときは、私か、近くにいる誰かに声を掛けてね」
終始優しい雰囲気を保ったまま、スミスは私に分かりやすく説明した。
私は何も言わずに頷いて、被験者たちの群れに小走りで合流した。
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