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O.TOKYO
翌日、南部の“郊外”にある境界検問所に向かった。秘書の桂と出都手続を済ませ、準備室でスーツから作業着に着替える。
「社長、防護服を」
「ん。ありがと」
桂から、鈍色の伸縮性のある特殊素材のつなぎと浄化フィルター付ヘルメットを受け取り、身に纏う。年々軽量化が進んでいるが、それでも全身装備は重く息苦しい。
「君は、いいよなぁ」
「心外ですな。社長は、入都手続前の全身洗浄の不快感をご存知ないから、そんなことが言えるんです」
ヒューマノイドである桂は、ヒューマンが5分と持たない汚染地区でも無装備で動き回れるが、代わりに入都手続の前に洗浄室に入らなければならない。そこでは全身を隈無くスキャンされ、内も外も体表面を洗浄されるのだ。
「そうだね。どっちがいいとも言えないか」
未知の病原体やアレル物質、汚染物質を持ち込まないため――「人類優先」の理念に基づいたルールだから仕方ない。
「お二方、準備は整いましたか?」
アナウンスに促され、減圧路を通ってドームの外に出る。外気を遮断した都市間管状通路を走行するが、設備破損のような最悪のケースを想定して、移動にはプロテクトバギーを使う。これは甲虫のように強固な装甲が施され、ドーム外の強力な紫外線や有害な汚染物質から護ってくれるからだ。
予約していたバギーは4人乗りの小型だ。低反発素材のリクライニングシートは繭に包まれるような快適さで、防護服の重さを一時忘れさせてくれた。桂が行き先をインプットすると、安全確認のアナウンスが流れて、ゆっくりと動き出した。運転は、搭載されているAIが自動運転してくれる。
「桂。今回の件に関わった犯人の数を聞いている?」
「20名です。うち3名は15歳以下ですが」
未成年を加えた辺り、情状酌量を狙ったか。
「……構わない」
「は?」
「例外は設けない。一緒に働いてもらう」
「それは……」
桂が戸惑っている。命の危険を伴う鉱物採掘場に未成年者を送るのは、非人道的判断かもしれない。それでも。
「プラントの被害額、設備の修復代、連中に提供する浄化水1年分――ミスリル鉱20kgで元が取れると思うかい?」
「いえ」
「それなりに損害を被っている。こういうことは、一度起これば十分だ」
「分かりました」
桂は、固い表情で頷く。彼の胸の内にある憂慮を黙殺する。
この処置は見せしめだ――この世界を支える仕組みに徒なすことが、いかに代償の大きいことなのかを示さなければ。
現在、世界には100の保護都市が点在し、すべて巨大で頑強なドームに護られている。大気の成分、土壌、水、食糧……人類が生き延びるために必要なあらゆる要素が、都市ごとに独立したAIによって管理されている。各都市の人口は、快適な人生を保障するために500万人が上限と決まっている。ただしこの人数には、高度AIを組み込んだヒューマノイドも含まれているので、純粋なヒューマンは総数の7~8割ほどになるだろう。
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