O.TOKYO

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 かつて人類は、宇宙に漕ぎ出すほどの科学力を手に入れた。人々は近隣の星々を探索し、人工の居住地を築き、高速で移動する船を飛ばすことに夢中になった。  宇宙(そら)ばかり見ていたから――が疎かになった。気づいたときには、もはや打つ手を失していた。  大地は熱波に乾き、草原は枯れ、山は燃えた。氷河が消え去り、海面が島を飲み、大洪水が村落を流した。風は荒れ狂い、町を瓦礫に変えた。季節の別なく予測できない豪雨と落雷、寒波が、都市の交通網を麻痺させた。水は汚染され、水棲生物の70%が死に絶えた。陸上でも植生が大きく変わり、樹木が著しく減少する一方で、地衣類とコケ類が大増殖した。調査では陸棲の動植物の60%が姿を消したといわれるが、実際はもっと多くの生物がこの星を去っていた。  もちろん、人類も無傷というわけにはいかなかった。伝統的な生活は壊され、諍いが頻発した。国際組織の支援は機能せず、暴動・略奪・虐殺……限りある資源を巡って、のちに「殺戮の9年」と歴史に記される負の時代に突入した。  世界規模の争いは、某国の大統領が核兵器を以て終結させようとした矢先――突如として幕が下りた。世界中の3000m級の山々が、示し合わせたかのように一斉に大噴火したのだ。それは天然の核攻撃に等しかった。その後20年に渡る火山灰の降灰と堆積。この星は、一度死んだ。  再び命を吹き込んだのは、かつて宇宙に旅立った居住地の末裔だった。彼らは、居住地を築く時に発見されたミスリルと呼ばれる鉱物を携えて、故郷の星に降り立った。宇宙で発展した優れた科学が、ミスリル製のドーム型居住地を地上にもたらし、数々の研究施設が建てられた。  保護都市は徐々に数を増し、それに伴って食糧生産プラントや浄水施設も次々と整備された。更に、かつて棲息していた動植物の遺伝子データに、環境適応因子を組み込んだ人工改変複製生物(デザイン・クローン)が造り出され、対汚染研究が進められた。  安定した社会の歯車が動き出して、30余年。高度AIを生活のあらゆる面に効率的に取り入れてきた人々は、遂に「保護都市連合政府(T H E U N I O N)」の発足を宣言し、保護都市の上限を100と定めた。  この頃から、ヒューマンの間には、2つの思想的派閥が生まれ、対立するようになった。つまり、「ヒューマン・ファースト」の理念を組み込んだ高度AIに全権を委ねるという拝AI派(プリンシパル)と、人類の歴史は人類が責任を持つべきだという排AI派(ナチュラリスト)である。  今から15年前、ナチュラリスト達は保護都市を飛び出した。  一口にナチュラリストといっても思想は様々で、僕ら(プリンシパル)から完全に離れ、独自の生活スタイルを貫く人々がいる一方で、地表嵐(メガスフィア)が吹き荒れる過酷な環境に疲れ、安全な水や食糧を僕ら(プリンシパル)から略奪する人々もいる。その多様性のため、統一政権を持たず、集落単位で生活している。  今回、プラントを襲ったのは、略奪を可とする粗暴な連中だろう。勝手にAI社会を嫌って飛び出しておきながら、AIが管理する恩恵に預かろうなんていう虫の良い連中だ。そんな相手に容赦することなんてない。
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