2人が本棚に入れています
本棚に追加
相合傘のマリー
七月七日と言えば、七夕である。
私達の小学校では毎年、近所の林から笹を貰ってきて、みんなで短冊をかけるという行事をやっていた。道徳の時間を使うので必ずしも七月七日当日にできるというわけではないのだが。
「皆さん、願い事は考えてきましたかー?」
六年二組の担任である浜崎先生が、みんなにそう呼びかける。
「毎年のことなので皆さんはもうわかっていると思いますが。お願い事は一人一つだけです。一人でたくさん短冊をかけるのはやめましょう。去年はこっそり一人で十枚以上短冊を持ってきて、笹を自分のお願い事だらけにしたお馬鹿さんがいますー。はい、鈴木くん、君のことですよ?」
「せんせえ、何でバラすんだよお!ちょっと人よりたくさんお願い事があっただけじゃねーかー!」
あはははは、と教室が笑い声で満ちる。これは、鈴木くん相手だからできることだな、と私は思った。関西人の伯父さんの影響なのか、鈴木くんという少年はみんなを笑わせることに定評がある。去年クラスで七夕をやった時、何十枚も一人で短冊を持ってきてお願い事を書きまくったのは完全に笑いを取るためだろう。
先生もそれがわかっているので、あえてみんなの前で暴露する。こういう空気は私も嫌いじゃない。
言い忘れていたが、うちの小学校のクラス替えは二年に一度である。つまりこのメンバーは、五年生の時からの長い付き合いというわけだ。――そのため、ちょっと嫌な子とも離れることができず、苦労したという経緯もあるのだが。
「ちょっとたくさん願い事ってなんだよー」
鈴木くんの友達が面白がって叫ぶ。
「その願い事の内容が超絶くだらねーもんばっかだったじゃねえか鈴木!ゲーム機が欲しい、お小遣いアップしてほしいならともかく、俺様のファンクラブが設立されますようにってのはマジで意味わかんね!」
「え、俺イケメンだろ?そろそろファンクラブくらいできてもいいだろ?」
「なんでだよ!いっぺん鏡見てこいよ!」
「ひっでえ!」
相変わらずにぎやかだなあ、と思う。笑いながら先生が話を続けた。なお、短冊自体は既に配布済みである。
「皆さん、人を傷つけるようなお願いはだめですからね!それから、匿名ではなく自分の名前を書いて、誰にでも見える場所に飾ることになります。それを念頭において、人に見られても恥ずかしくないお願いを書きましょう!」
最初のコメントを投稿しよう!