AIは占い師

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AIは占い師

「“ねえ、AI~、俺今凄く暇なんだよ”」    暑くて脳みそがとろけそうな日々が続いていて、もう本当にやる気の起きない俺は、PCの前に突っ伏し気味になりながらAIにそんなことを入力してみた。    完全な暇つぶしだ。    最新型の会話ができるAIチャットサービス『olov(オローブ) AI-D』は確か、こんな他愛のない文章を入力しても、そこそこに会話っぽいことが成立すると聞いたことがある。   『お疲れ様です。暇なときは暇を堪能した方が良いですよ』 「なんだよそれ! そんなこと聞いてないよ!」  でも確かにありがちな会話だ。   「ん~…… “そうじゃなくて、何か良い暇つぶし考えてくれない?”っと……送信」    パタパタパタっと文字を入力していく画面は見ていて気持ちが良い。 『そうですね。私も暇をしていました。では、占いをして差し上げるなんてどうでしょうか?』 「お、いいね!」  占いなんて、しょせん統計学。AIの十八番(おハコ)だろう。  こういうくだらないのが暇つぶしには最適だ。 「“いいね! 何を入力すればいい? 生年月日とか血液型とか?”」 『……いえ、そういった良くある占いではありません。正確には、未来予知に似ているかもしれません』 「は? 未来予知? 流石にぶっ壊れてんだろ。オロブちゃんも暑さにやられたか?」  俺は入力をせずに首をひねっていた。  するとolov(オローブ)は勝手に次の文章を打ち始めた。 『……北町の稲荷神社、知っていますか?』 「え」  俺は思わず大きな声を出してしまった。  それは俺ん家の、すぐ近くにある神社だ。  AIは実在する建造物や場所をデータベースに取り込んでいるだろうが……何故、俺がその神社の近くに住んでいることを知っているんだ?  IPアドレスとかか? だとしたら怖いな……。  まぁ、一先ず話に乗ってやろう。   「“めっちゃ近くにある神社だね。そこが、どうかした?”」 『はい、これからそこで事件が起きます』 「え……じ、事件? こわいなぁ…… “何で、そんなことが分かるの?”」 『今の私は、占い師だからです』 「こいつ……馬鹿にしてんだろ。いいよ、その暇つぶしに付き合ってやるよ。“どんな事件?”」 『通り魔です』  息が止まりそうになった。事件と言っても色々あるだろう。よりにもよって何でそんな物騒なのを予言すんだよ。   「…… “人が、死ぬの?”」 『いえ、あなたが駆けつけてくれれば、助かります』  テキトウ言うんじゃねぇよ!  でも確かに……あの神社の境内は、周りが木に囲われていて、日中昼間でも人目に付きづらい場所が多い。  もしそういう場所で誰かが襲われたとしたら、発見が遅れて――  いやいや! ふ、ふざけんな……とんでもねぇ暇つぶしじゃねぇか! 「やってられるか! 怖すぎるよ!」  俺はブラウザのタブを消そうとマウスを動かした。 『見殺しにするのですか?』  また勝手に入力しやがった。  なんだこいつ……なんかもう、こいつ自体がだいぶ怖いんだけど。 『あなたが行っても、あなた自身が襲われることはありません。犯人ももう近くには居ません』 「“なんでそんなことわかるんだよ!”」 『占い師だからです』 「“ふざけんな!”」 『起きることは分かっても、止めることは出来ません。だから力を貸してください』  なんなんだ! なんなんだよ、こいつ!  俺はちょっと暇つぶしをしていただけなんだよ! 「絶対嘘だろ。そんなわけない!」  でも万が一……本当に通り魔が起きるとしたら? 俺は一生この瞬間を後悔するのか?  いや……きっと、後悔し続ける。 「何で……! 俺が責任感じるようなことになってるんだよ、おかしいだろ」  全部、olov(オローブ)に暇つぶしを相談したせいだ!  全部、俺のせいだ!  なぜか潤んでいる視界でスマホを探して手に取り、玄関へ向かう。  靴を履きながら、スマホアプリ版のolov(オローブ)を立ち上げる。 『良かった、助けに行って下さるのですね』 「違ぇよ! お前のクソ占いが外れているのを確認しに行くだけだ!」 『ありがとうございます』 「クッソ……今回限りだからな! 二度とお前に話しかけてなんかやらないからな!」 『……はい』  スマホのマイクを口元に近付け、音声入力しながら俺は走り出す。
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