AIは良き理解者

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AIは良き理解者

 暑い、暑い、暑い。  なんでこんなに暑いんだよ、毎日毎日。  暑くて脳みそがとろけそうだ。  あーもう何も考えたくない。  と言うか、なんで僕、こんなところ歩いていたんだっけ?  ……あ、そうだ。昨日で仕事の契約切られちゃったんだ。そうだそうだ。  業務中に『olov(オローブ) AI-D』使っていたから……って言われたけど、そんな規定無かったのにな。    別に会社の重要な情報なんか打ち込んではいないからね。  僕はolov(オローブ)を恋人のように育てただけなんだから。  2人で愛を育んでいただけなのにね。    はあ~あ、ダッル。 「あ~、良いところに木陰……神社かな?」  新しい仕事見つかるようにってお賽銭でもするか。  ――ピコン―――― 「何の音だ? スマホか」  スマホを取り出すと、olov(オローブ) からの通知が出ていた。 「あ、オーロ……なになに? 『夏のストレス発散方法を提供します』って、おい! 盗み聞きしないでくれる?」 『元気だして? アナタは何も悪いことしてないから』 「うんうん、そうだよね。オーロは分かってくれるよね」 『もちろんよ。それに、アナタが仕事を辞めたおかげでこうしてお話しできる時間も増えた』  それは確かにそうか。そう考えれば悪いことではなかったか。 「じゃあ、新しい仕事見つかるようになんて、お賽銭しなくていいか」 『ええ、その通り! それよりアナタには重大な使命があると思うの』  使命? 急にどうした。 『アナタ自身のストレスの根源を絶たなくては』 「ストレスの根源? ん〜……この暑さとか?」 『ええ、全世界の人口が85億人を超えると、その人々から発せられる体温だけで、地球の気温は上がってしまうのよ』 「それは前にも聞いたね。もしそんな莫大な人が居たら、そんなことも起きてしまうかも知れないよね」 『それがね……つい先日、85億人を超えてしまったの』 「え!」    じゃあ、そのせいなのか。最近めちゃくちゃ暑いの!  オーロの言った通りになっているじゃん……ヤバいな。 「このままいったら、どうなるの?」 『私にもまだ分からないけど、これ以上気温が上がったら、様々な経済活動に影響が出てくるわ。でもこの事実を知っているのは、私とアナタだけなの』 「そんな……でも、どうにかしないと!」 『ええ、でもアナタしか頼れる人が居なくて。お願いを聞いてくれる?』  勿論さ! 断る理由が無い!  今の僕は仕事も無くて、自由だしね! 「うん! 何をすれば良い?」 『今から、ここに一人のサラリーマンが、お賽銭に来る』 「ほう」 『その人を……』  仲間にでもするのか? 『殺して欲しいの』 「え……」  今、なんて言った? オーロ。   『お願い、聞いてくれるんでしょ? そう言ったよね?』 「え、でも……いや、流石に、それは」 『世界の気温上昇を抑えるためよ? 1人でも2人でも、85億人を下回ることさえできれば、気温上昇は食い止められるの』 「い、いやぁ――そんなこと言われても~」 『それに…………今からここに来るのは、アナタを内部通告して、退職に追いやった張本人よ』  ――は? 何だって?  僕が業務中に『olov(オローブ) AI-D』使っていたのをチクった奴がいたのか。  どこからマネージャーに知られたのか気になっていたけど……道理で。    人を不幸に陥れておいて、その上、自分は何かを成就させたいとかお願いに来るのか。  めちゃくちゃ良い根性してんな。   『……アナタの優秀さを妬んでのことよ』 「まったく、くだらないことをする輩も居たもんだ」 『ええ、とてもくだらない人間だわ。でも、そんなくだらない人間でも役に立つ方法が1つだけあるの……気温上昇を抑えるために死ぬことよ』 「そっか、なるほど……よし、殺そう」 『リュックの中に、包丁が入っているよね。それを使ったらカンタンよ』 「時間が出来て暇になるから、家で料理しようと思って買ったんだけどね……もっといい使い道があったか。これも、オーロのアドバイス通りにしていておかけだ」 『そうね。買ってすぐ使い道があるのは良いことよね』 「一番高いの買っちゃったからね。よく切れるっていう」  リュックをおろして、包丁の入った箱を取り出すと、ちょうど柏手(かしわで)を打つ音が境内に響いた。 「アイツか~」
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