すててきたもの。

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 ***  彼女の予感は、当たっていたのかもしれない。  実憂ちゃんが大学の講義を休みがちになったのは、それから暫くのことだった。  心配するものの、彼女の家の場所までは知らない。仕方なく何度も電話をかけたり、LINEで連絡をしたりといったことを繰り返したのだが。 『あの絵の女の人がもう、あたしにしか見えないの!』  彼女は電話の向こう、切羽詰まった様子でそう叫んできた。ガラガラに枯れた声で。 『あの女の人が抱きしめてる黒い影、おかしいの。どんどん人の姿になってるの!瀬名ちゃんは気づかないの!?あれ、あれ、あれ、女の子の姿。小学生の女の子が、あたしの方見てるの。見て、見て見て、見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て見て、あれ、あれ、本当になんで』 『ちょ、実憂ちゃん落ち着いて!黒い影にしか私には見えないよ!』 『そんなはずない!あれは絶対……絶対、佐川さんよ!』 『え』  さがわさん。  その名前には聞き覚えがあった。実憂ちゃんは、小中学生の頃かなり荒れていたと聞いている。それで小学生の時、一人の女の子を虐めていたというのだ。その名前が、確か佐川夏音(さがわなつね)であったのではなかろうか。  いじめの内容は酷いものだった。数人の友人と一緒に、彼女に万引きを強要していたというのである。  夏音は何度も警察に補導され、親も呼び出され、学校からも何度も指導されることになり。それでも、万引きを指示した実憂ちゃんたちは知らぬ存ぜぬを繰り返して罪から逃れてしまったのだとか。夏音が転校し、今では実憂ちゃんも自分のやってきたことを悔やんでいると話していたが。 『ゆるしてもらわなきゃ、佐川さんに。今どこにいるの』  それが、実憂ちゃんとの最後の会話だった。それ以来、彼女は大学にも出てくることなく、電話にも出ず、完全に音信不通になってしまったのだから。  実質行方不明になってしまったと学校には聞いた。教員が彼女の家の住所に足を運んだところ、完全にもぬけの殻だったというのだから。 ――何が起きてるの?あの絵に、何かあるの?  私は調べてみた。どうやらあの絵を見て、おかしくなった人は何人もいるらしい。ネットではいくつも情報が溢れていた。
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