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 あまりにも薄気味悪く聞こえる、チャイコフスキーの『くるみ割り人形』の中の、『花のワルツ』。  明るく、軽やかなメロディが、逆に、悪いメッセージの使者に思える。嫌、さっさと切れて。だが、出なくてはいけないことを、本能が告げている。 「はい、もしもし」  恐る恐る真理恵は言う。 「奥様、中谷ですが、社長がとんだことで」 「え?」  中谷と名乗ったのは、早紀の秘書だ。 「ネットニュースをまだご覧になってませんか?」 「何かあったの?ちょっと待って」  真理恵は急いで、そばのパソコンの、ネットニュースを見る。  最初の見出しに、「YURIKAの息子、都内のホテルで刺され、死亡」  と出ている。急いで、記事を確認する。  【7月18日、都内のホテルの従業員から、「部屋で宿泊客が騒いでいる」と、警察に通報があった。警察官が駆けつけたところ、タレントのYURIKAの息子である柴田翔太さんが、ナイフで刺され、そばにいた柴田パソコンスクール社長の、柴田早紀さんも刺されて倒れていた。二人は病院に搬送されたが、死亡が確認された。二人と共に部屋にいた3人の男性から、警察が事情聴取したところ、「先月の特殊詐欺の実行犯役への報酬が少ない」ということで口論になり、刺したとのことだった。柴田さんは、逮捕歴があり、最近は、知人の相続で手に入った金で、特殊詐欺の拠点を、都内からインドネシアへ移そうとしていたという。柴田早紀さんは、最近、父親である柴田良彦さんの後を継ぎ、社長になったばかり。かつて良彦さんがYURIKAと結婚していた当時、翔太さんを養子にし、今回の相続で翔太さんと知り合い、交際していたもよう。】  無情に流れる文章。 「もしもし、奥様?大丈夫ですか?」  秘書の声も耳に入らず、真理恵はその場に卒倒した。                             (了)  
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