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 それきり、早紀は真理恵からの電話には出てくれなくなった。LINEのメッセージは、既読にはなっても、返信はない。ビジネスの用件には、それなりに応じるが、翔太との件は、何を言っても無駄だ。  翔太が、もらった金を、どう使うかはわからない。だが、そこに早紀が関わっているのが、心配でならない。  早紀との言い合いから、ひと月がたった。  早紀は、仕事は通常どおりしているのだろうが、ビジネス以外は音信不通のため、どこにいるかもわからない。家には帰らないし、行先やスケジュールも一切言わない。とりつくしまがないのだ。  女にとって、恋の相手は、絶対的な存在だ。母親さえどうでもよくなるくらいに。母親なんて、無力だ。娘が恋をすれば、別れろと説得しても、別れさせるのは不可能だ。どんな母親が懊悩し、懇願しても、娘は男を選ぶ。たぶん、娘がこの先気づいた時は、遅いのだ。そんな例は、世間にいくらでもある。だが、娘の破滅は、何があっても阻止したい。娘には言わなかったが、実は、真理恵は、探偵に、翔太の動向を探らせていた。確かに翔太は、、バイトはやっているが、一方で、昔のワル仲間とも切れていない。かつては「出し子」だったが、今度は自分が人を使って、ひと儲けしようと、たくらんでいる節があるという。そんなことをしても、かなうはずがないのに。たぶん、そのために、今回の相続分を充てるつもりなのだ。彼がどうなろうと、かまわないが、娘だけは、守りたい。  その時、真理恵のスマホが、着メロを奏でた。  
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