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司法書士の言葉に、耳を疑った。
「奥様は、ご存じなかったのですか?」
「夫が、連れ子がいる女性と結婚していたのは知っていましたが、離婚した後は、それっきり、あとくされがないものだとばかり思っていたので……」
「そうですか」
と、司法書士は言う。
柴田真理恵は、声も出ない。かろうじて、
「あの……法律上決まっていることですから、ひっくり返すのは無理ですよね?」
と、ダメモトで言ってみる。
「無理です」
にべもない言葉だが、現実なのだから、仕方ない。恨むなら、司法書士でなく、夫を恨むしかないのだ。
慰めのつもりかどうは知らないが、司法書士は、
「こういうことは、珍しくはないんです」
と、続ける。真理恵は、
「一般人は、法律に疎いからですか?」
「というより、自分の判断が正しく、漏れはないと思ってしまうからでしょうね」
との言葉には、うなずける。彼はさらに言う。
「離婚に際して、特に問題はないと思えば、普通は費用をかけてまで、弁護士など雇ったりはしないでしょう。別れればそれっきりで、縁が切れてしまうというのが、一般的な考えです」
「でも、今回は、実は思わぬところに、落とし穴があったというわけですね?」
「だんな様の真意はわかりませんが、そういうことです」
くやしいが、真理恵はその事実にうなだれるしかない。そして、真理恵は、
「わかりました。では、またご連絡します」
と言って、上の空で、司法書士を送り出した。
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