コールセンターへ入る前

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コールセンターへ入る前

 奈々子は、夫と離婚した。  その時には家族経営の水道設備会社に勤めていたのだが、〇王子市の談合がばれて、社長が刑務所に入ることになり、その間、指名停止もあった会社だ。  奈々子は、元々家族経営の会社の専務(社長の長男)の元で、事務仕事をしていた。この会社、談合が常であったので、奈々子もそれとは知らずに、入札に行かされた。  この場合の入札は、その建物の工事をどの水道設備会社が請け負うかの金額を、工事をする側の会社に示すものだ。  その工事の最低金額が決まっていて、粗悪な工事や、手抜工事ができないようになっている。その金額以上で、一番安い金額を提示した会社が落札となる。  その会社は〇王子の中でもグループを作っていて、公的な工事をそれぞれの会社に不公平がが無いように順番に落札できるように、金額を決めて入札に望むのだ。  最低金額は、奈々子には不思議なのだが、これは、公的機関も一緒になって談合に加担していたとしか思えないように、何故か、前もって知らされる。  そして、その時に落札する会社の金額が各会社に回ってきて、それぞれ、その金額よりも高い金額を紙に書いて、選挙の時のように、一社ずつ前に出て、工事を依頼している会社の人たちに見せるのだ。  最低金額を割っていなくて、その中での最低金額で、自分の会社が落札するときには、専務が入札に行く。つまり、自分の会社が工事をすると決まっている時には、その後の打ち合わせは、奈々子では無理なので、最初から専務が行くのだ。  なので、奈々子が行く時には、いつも別の会社が落札する。面白い決まりがあって、工事をみんなから貰った会社は、お昼ご飯を全部の会社にごちそうしなければいけない。  だから、入札が終ると、そのグループはおじさん達が大勢集まって、お食事会をするのだ。  奈々子はおじさんの中に入って、よくお昼をごちそうになって帰った来た。  ただ、何回か行くうちに、 『あれ?これって、不正?』  と、思うようにはなった。ただ、まだ内情もよくわかっていなかったし、声に出して言うのもはばかられたので、黙っていたが・・・  後、この会社はおかしな決まりごとがあり、お昼ご飯は女性社員は全員が一階の会議室で食べる事ときまっていた。  何故か?お昼の時間に電話がかかってきたときに、出る人がいないと困るからなのだ。  社長の奥様は、社長や専務のご飯を用意しなければいけないので、昼休みの電話には出られないというわけだ。  でも、昼休みはれっきとした休み時間だし、何故、女性社員だけが電話番をしなければいけないのかは、奈々子には不思議だった。  月に1度。お給料日に当たる日には、奥さんに、一回の奥さんと一緒の机で仕事をしている事務の子が許可をとり、外食をすることができる。  おかしな会社だった。  結局、そのおかしなシステムに我慢できなくなった奈々子は、 「会社の社則って、いつでも見えるところに置いておかなきゃいけないのよね。昼休みの事とか、読んでみたいけど、社則って見たことないなぁ。」  と、ついつい、昼休みに声に出してしまったのだ。  一階で奥さんと仕事をしている事務の女の子は、奥さんにそのことを黙ってはいなかった。  奈々子は、その発言をした翌朝、社長代理をしている専務に呼び出され、一階の会議室に行った。  驚いたことに、社長の奥さんと、弁護士という人も同席し、その、一回の告げ口をした事務の女の子も、同席させられていた。 専務「どうもさ、うちのやり方に不満があるようだから。やめてもらってもいいんだよ。社則なんて、いつでも一階の玄関の横に掛けてあったんだから読めばよかったんだ。」  これは、まるっきりのウソ。でも、その当日は社則がかかっていたらしい。 奥さん「あんた、結婚しているって言うから雇ったのに、いつの間にか離婚していたって言うじゃないの。報告されていないわよね。  で、会社の悪口を休み時間の度に言っていたらしいわね。」  これは、確かに離婚はしていたが、苗字は変わっていなかったし、子供を引き取ったわけでもなかったので、会社には関係ないと思って報告していなかった。それに休み時間の度になど、悪口は言っていない。  最後の一回。だけである。それも、社則がないね。という疑問は悪口だろうか?  弁護士は何も言わずに黙って成り行きを聞いている。  これだけ強気で来るのだから、奈々子は言い訳をしても無駄なんだろうなと、思ったし、同席させられている事務職の子は、終始下を向いて、黙ったままだ。   つまり、彼女への見せしめで、奈々子を辞めさせるわけだ。 専務「短い休憩は、会社のPCでゲームしていたみたいだし、そんなにやる気ないならやめてもらっていいから。今日、今すぐ荷物まとめて帰って。給料は来月の一か月分、明日にでも振り込むから。」  そこで、弁護士が、紙を出して、一筆書くよう求めてきた。  奈々子は仕方なく一筆書いた。  その時奈々子は知らなかったのだが、会社都合でやめさせる時には、向こう一か月の給料を支払いさえすれば、違法にはならないのだとか。  確かに短い休憩には会社のPCでゲームはしていたが、フリーセルとか、PCにインプットされているゲームで、別の社員さんもやっていて、 「時間あるなら休憩の時はゲームしていてもいいよ。」  と、言ってくれていたので午後の10分休憩とかでやってはいた。  それがいけなかったのなら、申しわけないとは思うが、だったら他の社員さんにも罰則を与えてほしかった。  奈々子は、理不尽極まりない理由と、今でいえばパワハラ満載の会議室で、一人対4人という恐ろしさの中で、勝手に会社から首を切られた。  自分の他に稼いでくれる人もいない奈々子は、すぐに次の就職先を探し始めるのだった。  
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