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危険のニオイを嗅ぎ分ける杖
あるところに、とてもツイていない男がいた。
見掛けは何処にでもいるサラリーマンのようだが……最近、仕事で大ミスをして上司にこっぴどく怒られた。
プライベートでも恋人にフられたばかり。
親友だと思っていた知人に金を貸したら、トンズラされた。
二日前はケータイの画面を割った。通算五回目だ。
一昨日はサイフをなくした。これは三回目。
昨日は犬に噛まれた。
そして今は病院にいる。――今朝、クルマに跳ねられた。
不幸中の幸いというか、ウデを折っただけですんだのだが、男はガクガク震えていた。
「日に日に、ツイテなさが増している……」
今日は骨折ですんだが、明日はどうなるか……。
今後の通院の話もそこそこに男は病院を飛び出し、厄祓いで有名な神社へ向かった。
名前は何度か聞いたことのある有名な神社だったが、参るのは初めてだった。
思っていたよりも近くにあって驚いた。
高層ビルが立ち並ぶオフィス街のど真ん中にあり、都会には不釣り合いなほどの木々が生い茂っていた。
都会の喧騒から隔離された、まるで異世界のような雰囲気。
息をのみ鳥居をくぐると、すぐに横から声をかけられた。
「お兄さん! ……これを持っていきなさい」
男は驚いて、思わず尻もちをついた。
折れていない方の手でカラダをかばった。
声のした方を向くと、そこには神主のような格好をした老人が、1本の杖をついて立っていた。
「転ばぬ先の杖というが、どっちに進めばいいか迷った時、この杖を倒してみなさい」
老人は杖を差し出しながら言う。
「この杖はとても鼻が良いから、危険のニオイがわかるんだ。ニオイが強い方へは倒れたがらない。だから、倒れた方へ進めば、お兄さんはもう災難に出くわすことはないよ」
そう言って杖を手放すと、杖はユラユラと揺れてから、鳥居の外を向いてて倒れた。
「ほら。おいきなさい。もう大丈夫だ」
老人はそのまま神社の奥へ消えていった。
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