Ⅷ 過去と、現在

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一度、アザミに 聞いてみた事が有った 「何故、アザミは 私を受け入れて くれるの? この部屋にも 何度も 入れさせてくれる」 直接聞いた事は無いから 確信は無いが アザミが一人の女性と 何度も関係を持たない 自分が彼にとって “特別”な 存在で有る事は 自負している でも、その理由が 何故なのか 分からない… 「――お前はつまんない事 言わないから」 アザミは床に寝転がり 煙草をくわえながら 上に上がる煙の 白い線を眺めている 「つまらない事って?」 「俺の事好きだとか――。 お前は面倒臭くない」 「そう。じゃあ、 私がもし アザミを愛したら、 もうあなたの側には 居られないんだね?」 私はアザミとの いつもの遊戯で 傷付いた右手の 手首の傷を見ていた 今日もここが 傷付いている 左利きで有る彼に 強く、強く 掴まれて いたからだろう―― きっとアザミの 左手の親指の爪の先には 私の血が ついているだろう 私達はこんな形で 通じ合い 繋がっている 「他の女は 一度俺と寝たら、 怖がるか嫌がるかで 離れて行く。 お前が俺の側から 離れないだけだ」 アザミは私の質問には 答える事無く そう言うと 体を起こし 煙草を灰皿に 強く押し付け 揉み消していた 「――そうだね。 私は狂っているから アザミから 離れられないのだろうね」 私のその声は 静かな部屋に響いて 消えて行く アザミの耳には ちゃんと届いたの だろうか? 彼はもう何も言わない――
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