Ⅷ 過去と、現在

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半年もしないうちに 私と母親は その町から 逃げるように離れた 父親の籍から私達は抜け 私と母親は “笹本”の性を 名乗る事にした 父親の保険金も 父親の両親から譲り受けて私達が住んでいた 家も売り 全てを分散して 被害者に少しずつ返した だけど、被害額は とてもじゃないけど そんなものじゃ 気休めにしかならない 金額だったと思う 私が覚えているのも 知っているのも それが全てだ 父親の葬式に 出席した時の事も 全く覚えていない 父親の事は もう思い出したくない なのに、 父親が付けた 自分の名前を思う度に 思い出してしまう―― 私は父親が大好きだった どれだけ恨んでいても それは変わらないだろう
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