Ⅸ 彼は、狂ってない

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「トモっ」 私は廊下で 菅原友喜と擦れ違う際に 彼を引き止めた 「百合――」 菅原友喜は 私に何を言われるのか 不安そうに 私に視線を向けていた 「――私子供の時から トモが好きだった。 だから、もう一度 この学校でトモに会えて 本当は嬉しかった。 だけど、私はもうトモを 好きじゃないんだ――。 今は他の人を…」 愛している―― 思わず出かかった その言葉が恥ずかしくて 私は口を閉ざした 菅原友喜は 突然のその告白に 驚き、しきりにまばたきを 繰り返していた 「そっかぁ…。 複雑な気分。 嬉しいような 悲しいような――」 アハハ、と 菅原友喜は笑う 「それと、私は嫌いで トモを避けている訳じゃ ない。 だけど、これからも トモとは関わらない。 その理由は聞かないで」 私がそう言い終えた時に 授業開始のチャイムが 鳴り響いた 「――分かった。 百合の気持ち聞けたから これで最後にする。 じゃあな」 菅原友喜は 昔から何一つ変わらない 笑顔を浮かべ 自分の教室の方へと 走って行っていた 私はそんな彼の背中を 懐かしく切ない気持ちで 見つめていた
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