Ⅸ 彼は、狂ってない

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鍵は今も 私の手の中に有る―― 私は携帯電話の ストラップに取り付けた アザミの部屋の鍵を 視界の端入れた 太陽の光を反射して 白く光っている 『それを持って、 今直ぐアザミの マンションに 来てくれないか? 頼むっ――』 金城さんのその声は とても緊迫していて 本来なら断りたい所だが 私は頷き、 電話を切った アザミのマンションの エントランスに居た 金城さんに アザミの部屋の鍵を 渡すと 彼は奪い取るように それを手にし ガラス扉の鍵穴を 壊してしまうんじゃ ないかと思うくらいに ガチャガチャ、 と乱暴に 鍵を開けていた その様子が 尋常じゃなくて 私は自分が考えていた事が もしかしたら 違うのかもしれないと 思った 金城さん自身が 今、アザミの部屋の鍵を 必要として いたのだろう――
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