sky of happiness

1/1
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

sky of happiness

もう私は、この世界の一員ではなくなる。 この、うつくしい世界の。 届きもしないあなたの手紙にはもう何もいらないと書いたけれど、やっぱりもう少しくらい、生きてみたかったのかもしれない。 頬撫でる風が気持ちいい。 まだ生きたい。もう少しだけでも、世界をもっと知りたい。 小鳥が鳴いている。 ふと耳を澄ますと、何かが近づいてくる音がした。 空気が揺れるのが分かった。 足音だ。誰かが来た。 こんなところでひとりぼっち、死のうとしている子供に会ったって、何も思うことはないだろう。 でも誰なんだろう。また誰かに連れて行かれたりしたらどうしよう。 ふと、誰かが仰向けになった私の顔を覗き込んだ。 目が合った。時が止まる。 もしかしたら。一滴の期待が、胸にそっと零れる。 目の前の男の人の目尻が、少しだけ緩んだ気がした。 本当に、あなただったとしたら。 「あなたは、」 「うん。」 言葉を交わさなくとも、彼の目を見れば分かった。 あの時私の手を取って、森へ連れ出してくれた人。 うつくしい世界を、私見せてくれた人。 「そら、さん。」 彼はそう言った。 私はただただ、無言で頷く。 そう。私の名前は、そら。 彼の目には涙が滲んでいた。 「僕はあなたからの便りを読んだ時、そらよりって書いてあったのが、なんだか嬉しかったんです。そらから来たのかな、って思って。とってもいい名前ですね。」 息が詰まる。 「あ、ありがとうございます。」 私がやっとのことでそう応えると、彼はにこにこと笑っていた。 彼はデイジーの花を渡してくれた。 「僕たちが出会ったのってね、多分運命なんだよ。僕たちは出会うべくして出会ったんだ。あの日僕はあなたを見て、助けなければならないと感じた。そしたら、体が勝手に動いていたんだ。」 うつくしい世界が、輝きを取り戻していく。 花が揺れている。 今までのことは全部今日のためにあったんだと、本気で思った。 手紙をあなたに書いてよかった。 風船を拾って、飛ばしてよかった。 あの日、流れる雲が綺麗でよかった。 あの時、摘んだ花がうつくしくてよかった。 この草原に、寝転がっていてよかった。 デイジーの花を、摘んでよかった。 助けられた相手が、あなたでよかった。 拾ってくれたのが、あなたでよかった。 今日のそらが、晴れていてよかった。 「あなたで、よかった。」 目を開けると、彼が笑っていた。 こんなのは、偶然なのかもしれない。 でもその偶然を必然と、運命と言える彼のために私は、これからを生きていくのだ。うつくしい、この世界の中で。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!