ハリコの都市

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 都市とは、人口の密集した地域のことで、文化や科学の発展した場所である。  (きら)びやかな装飾が(ほどこ)された城壁(じょうへき)(あお)ぎ見て、リリは驚きを隠せなかった。彼女は一瞬、場所を間違えたと思ったのだが、電子地図の座標は確実に目的地と一致していた。 「地図にはハリコ“村”と表示されているのだが」  争いの絶えぬ時代には、外部からの攻撃を防ぐために城壁で囲まれた都市が発展したという。ただこのコミューンは、まるで内部からの攻撃を防ぐかのような構造をしていた。  リリが門をくぐり抜けると、突然見えない攻撃に(さら)された。リリはすぐに放射線量計を見たが、数値に異常はなかった。 「安心してください。放射能汚染はもう、浄化されているので」  目の前の老人はそう言って(うつ)ろな目で私を見つめた。 「いや、今何か攻撃を」  リリが老人に問うと、老人は冷静な口調でこう返す。 「なにせ物騒なモノでね。ちょっとした“(まじな)い”を」 「“(のろ)い”の間違いじゃないか?」  リリがそう言うと、老人は不敵(ふてき)な笑みを浮かべた。 「たしかに、“(のろ)い”かもしれないですね。一夜にして“大都市”が滅び、私一人の“村”になってしまった悲劇の“(のろ)い”。それはそうと、久々の客人だ。我が宮殿で、もてなしましょう」  老人に誘われるがまま、リリは宮殿へと向かう。宮殿には優雅な音楽が流れ、美しい絵画が飾られていた。リリが長テーブルに案内されると、料理が運ばれてくる。彼女が久々の豪華な料理に心を奪われていると、生演奏がぱたと止まった。 「すみません。料理を運んできたり演奏をしていた人たちは、誰ですか?」  リリが恐る恐る老人に聞くと、老人はまた淡々と答えるのだった。 「この“村”に人は、私しかいません。ああ、今は私とあなただけでしたね。あとは」 「あとは?」 「かつて人だったモノたちです。大丈夫。“(まじな)い”をかけておけば、あれらは襲ってきませんから」
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