機械仕掛けの閻魔大王

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『あなたは知らないでしょうけど、野生の人間はとても知能が低くて愚鈍な生き物なのよ』 「……え?」 『怠け者で狩りをする事さえしない。草や木の実を食べてのんびり生きていたのよ。知的好奇心も低く、言葉も道具ももたない。猫以下だったわ。獰猛な生き物に食い荒らされ絶滅寸前だった』 「そんなバカな……」 「それを救ったのがAIよ。人間にチップを埋め込む事で知恵を授けた。それからの発展、進化は目覚ましいものだった」  嘘だ。信じられない。この大きな脳も、器用に動く指も、人間の知能の高さを物語っている。それに妻も娘もAI? そんなはずはない。妻の優しさ、娘の無邪気さ。あれが人工知能なわけがない。 「でも今現に体があるじゃないですか。砂粒の大きさのチップなんかじゃない」 「それ、ホログラムよ。実体はカートに乗せられたただのチップ」  この手がホログラム……? 『信じようが信じまいが、それはあなたの自由です。あなたも次のステップに進めば全て分かるようになるわ。だから早く生まれ変わりましょうね』  エマはVRゴーグルのスイッチを入れた。僕は強制的に仮想現実の中に引きずり込まれた。僕がした数々の悪行が映し出される。親に反抗した時の事、友人の悪口を言いふらした事、妻の妊娠中に会社の女の子と浮気した事。  もう何が現実で何がバーチャルなのか分からない。否応なく修羅場が襲ってくる。お袋が僕に悪態をつく。みんなが僕の悪口を言っている。  妻が浮気をした。僕は問い詰めた。しかし妻は逆ギレして僕に暴力を振るった。僕はお腹の赤ちゃんを守るためにお腹をかばった。  分かってる。僕が妊娠中で相手をしてやれないから浮気をしたんだろう。でも僕はツワリで苦しいんだ。初めての妊娠で不安なんだ。側で支えてくれるのが妻だろ? いや、僕だ。僕がした事でありしなかった事だ。そこは反省する。でも浮気なんて許せない。  僕は妻を憎いと思い殴り返した。暴言を吐くお袋の頬を平手打ちした。悪口を言う奴らを蹴飛ばしたーー。  こんな事をしていたらいつまで経っても生まれ変われない。  お袋の睨み返す顔、僕を蔑む友人の顔、浮気相手に泣いてすがる妻の顔がぐるぐると頭の中で回る。何度繰り返しても結果は同じだった。まさに地獄。やはり地獄はある。いつ終わるのか分からない悪夢に、僕はうなされ続けた。 〈終〉
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