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三途の川
遊覧船は快適だった。全く揺れずスクリューの音もしない。僕はのんびりと水面を眺めた。
「あれ?」
水面は穏やかで波ひとつたっていない。そんな馬鹿な。小さいとはいえ10数人が乗っている船だ。水との抵抗で波くらいたつはずだ。僕は手すりから身を乗り出し水面を見た。すると驚いた事に船は浮いていた。ホバーボードか? だとしたらしぶきが飛ぶはずだ。でも何もない。
科学の力なのか。それとも本物の心霊現象なのか。何にしても凄い。これが人間界にあったら安全に航海出来るだろう。
感心しながら川を眺めているとイカダの残骸が流れてきた。やはり壊れてしまったようだ。周りを見ると何人かが水の中にいた。しかしそんなに深くないようで歩いていた。この辺は川の流れも緩やかでヘビもいないようだ。みんなずぶ濡れになりながら岸に辿り着いていた。
対岸に到着すると、すかさずロボットが近付いてきた。
『服を脱いでください』
言われた通りに服を脱ぎ、渡す。ロボットが持つと顔にデジタルの数字が表示された。
『最終ゲートにお進みください』
そう言うとロボットは他の人の方へ移動した。さっき歩いて川を渡った人だ。
『重量オーバーです。あなたの罪も重量オーバーです』
「おい、俺の服は水を吸ってるから重いだけだ。俺の罪とは関係ない!」
『重量オーバーです。最終ゲートにお進みください』
ずぶ濡れの男は納得いかなそうな顔をして最終ゲートへと向かった。
最終ゲートの後ろには見上げるほどの建物があった。金ピカで金閣寺を大きくしたような立派な建物だった。屋根は雲の上だ。ここに閻魔大王がいるのか。どんな審判を下されるのだろう。僕は拳を握りしめゲートをくぐった。
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