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機械仕掛けの閻魔大王
たくさんの人がいるはずなのに中には誰もいなかった。何処へいってしまったのだろうか。その時スーツ姿の女性が僕に近付いてきた。僕は慌てて体を手で隠した。
『人生お疲れさまでした。私はエマです。お部屋に案内しますので付いてきてください』
エマ? 閻魔じゃないのか?
エマはすぐに後ろを向き、歩き始めた。しかし歩き方が規則的すぎる。皮膚感といい喋り方といい、ほぼ人間と変わりがない。でも声が変だ。
エマはロボットに違いない。相手がロボットだと思うと裸でいる事に抵抗を感じなくなった。
「あの、他の人たちは何処へ行ったんですか?」
『みなさんそれぞれのお部屋へ行かれました』
順番に閻魔大王と会うのではないのか。部屋で順番待ちをするのだろうか。いったいどういうシステムなのだろう。
エマに案内されたのはベッドがひとつあるだけの小さな部屋だった。
『こちらに横になり、これを装着してください』
渡されたのはVRゴーグルだった。
「え? どういう事ですか?」
『あなたが犯した罪を追体験してもらいます。先ずはあなたが被害者になり、被害者が加害者になります。あなたが加害者に与えた苦しみを、あなたが実際に味わうのです。そして罪の重さを実感し、反省しなければなりません。その反省を踏まえ、罪を回避する方法を考えてもらいます。
その後仮想空間の中で自分が考えた方法を実践します。それを何度も繰り返し、心から、自然に、良い行いができるようになったら再び人間に戻ります』
ここは本当に”あの世”なのか? 僕は死んだのではなかったのか?
『では早速』
「ちょっと待ってください。いくつか質問させてください」
エマはにっこりと微笑んだ。小首を傾げる仕草も口角の上がる角度も人間そのものだ。でも目は笑っていない。やはり人間ではなさそうだ。
「僕は本当に死んだんですか?」
『あなたは病気で息を引き取ったんでしょ?』
「だったら閻魔様は何処ですか? 僕は天国へ行けるんですか? それとも地獄行きですか?」
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