お花畑

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お花畑

 眼前に広がる花畑。その先には川が流れている。  ああ、三途の川って本当にあったんだ。  覚悟はできていた。病気が分かった時はもう手遅れ状態だった。苦しかった。早く楽になりたいと思った。でもまだ保育園に通う娘ともっと過ごしたかった。それでちょっと頑張ってみた。僕が痩せ細るのと一緒に心労で痩せ細る妻を見るのが辛かった。  最期は妻と娘に手を握られながら旅立つ事ができた。感無量だった。  感傷に浸りながら色とりどりの花たちの間を進むと川に着いた。川には金銀の装飾のほどこされた立派な橋が架かっていた。この橋を渡れば「あの世」とやらに行けるのだろう。橋の入口にはたくさんの人が集まり行列ができていた。みんな僕と同じ頃に亡くなったのだろうか。僕は最後尾に並んだ。  しばらくすると僕の後ろにもたくさんの人が並んだ。しかし行列は遅々として進まない。大人数でも渡れそうな広くて立派な橋だ。なのに橋を渡っている人はいない。何故なのだろう。 「おい、早く行けよ!」  後ろから怒鳴り声が聞こえたので振り向いた。目つきの悪い痩せこけた男が貧乏ゆすりしていた。 「進みたいんですが前が詰まっていて」 「はぁ? 順番なんてのはな、俺が決めるんだ」  男はスタスタ歩いて最前列のお婆さんを押し倒し1番前に並んだ。 『次の方どうぞ』  橋のたもとにあるゲートから音声が流れた。男がゲートをくぐろうとした瞬間。  ブーーー 『あなたは3番ゲートに進んでください』  そう音声が流れるとシャッターが勢いよく落ちた。
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