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朝
タクミは家を飛び出した。
「やばい!遅刻だ!」
カバンを鷲掴み、革靴の踵を踏み駆け出す。
「なんで今朝に限って姉ちゃんが自転車乗ってくんだよ。使うなら昨日のうちに言っとけよ。
駅まで徒歩で何分かかると思ってんだ。」
タクミの家は最寄駅から徒歩20分はかかる。
いつもは自転車で5分だ。
この差の15分は大きい。
タクミの姉は通勤にいつもはバスを使う。
自転車だと少しお高い通勤用のヒールに傷が付くから乗らないと、いつも言っているのだ。
それが、タクミがいつも通り起き、いつも通りのペースで身支度していると、母親が、
「あーそうだ。お姉ちゃんが自転車使うって、乗ってったわよ。」
と言い出した。は?何でそれを今言う?
俺が起きてからすぐ教えてくれりゃいいだろ?
何で呑気に今言うんだよ。と思ったが、それを口に出さないのがタクミのいいところだ。
「え、そうなの?」
それだけ言うと、用意されていた朝ごはんは食べずに、慌てて家を出たのだった。
いつも自転車で走る道を、今朝は猛ダッシュで革靴で走る。
大通りの交差点で信号待ちになると、一気に汗が吹き出してくる。
早く早くと横断歩道を前に気が急いていると、
タクミの横に1台の軽自動車が停まった。
ハザードランプの光るレモンイエローの車体の窓が開くと、中からタクミの高校の制服を着た女の子が顔を出した。
「あの、すみません。その制服って、△◯高校ですか?」
「あ?あぁ、はい。そうですけど。」
「私、転校生で今日から登校するんですが、道がよく分からなくなってしまって。あの、車の道順をご存知でしたら、教えていただけませんか?」
「道って。分かりますけど。この道をしばらくまっすぐ行ってですね。ガソリンスタンドがある交差点を右折です。そこから‥」
「あ、あの。これから登校されますよね?
よければ、一緒に乗って案内していただけると助かるんですが。」
「え?俺、あー、いいですけど。」
「ありがとうございます!お願いします!
あの、信号変わりそうなので急いで。」
タクミは、示された後部座席に乗り込んだ。
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