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登校
タクミが車に乗り込むと、運転席の女性がルームミラー越しに、
「ありがとう。本当に助かったわ。手続きで何度か行ってみたはずなんだけど、どこで曲がったらいいか分からなくなっちゃったの。
娘と同じ制服の子が信号待ちしているの見えたから、助けてもらおうと思って。」
そして助手席の女の子が、
「ありがとう。初日からこんな偶然、なんだか学校生活でいいことありそう。私の名前は
クドウ ハナ。普通科の2年になるの。
先月まで都立高校に通ってたんだけど、親が離婚して、私は母親とこっちに引っ越したの。」
と明るく元気に自己紹介し始めた。
「あ、その次の交差点右です。で、コンビニが見えてきたらその先を左折して‥。」
タクミは道案内に集中しながらも、ハナの言葉に相槌を打つ。
「俺も普通科2年。サトウ タクミです。あ、そうなの。うちも去年両親が離婚して今は母ちゃんと姉ちゃんと3人暮らしなんだ。ま、以前と生活は何も変わらないけどね。 その角です。左へ。」
「あ、そうなんだ。今時離婚なんて珍しくないよね。うちも父親がいなくなったからって、今まで通りの生活なんだ。ただ、住むところは変わらなくちゃならなくて。父親がマンション売って私の養育費全額前払いしたの。」
ハナはそう言うと、楽しそうに笑った。
運転席のハナの母親は、ハナの話を止める様子もなく、ただ笑顔で前を見ている。
校舎が見えてきた。タクミの提案で、少し離れた所に車を停め、そこからタクミとハナは歩くことにした。登校時刻には十分間に合っていたから。
「2人とも行ってらっしゃい。気をつけて。
タクミくん、本当に助かったわ。ありがとう。
帰りももしよかったら、この辺に停めてるから乗っていってね。」
そう言ってハナの母親は車を出した。
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