仲間意識

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仲間意識

タクミにとっても今朝の状況からいって、 あのまま駅まで走っても遅刻ギリギリだった。 車で登校できたことは超ラッキーだった。 「いえ、こちらこそ。乗せてもらっちゃって。 ありがとうございました。」 ハナの母親の車を見送り、ハナと2人正門に向かう。車を降りてからもハナは話続けている。 「ねえ、タクミくんの家は何で離婚したの? うちはね、父親が浮気してて、知らないうちにもう一つ家族持ってたの。まるでテレビドラマみたいでしょ?私の父親はね、LCCの国際線のパイロットなの。だからほとんど帰宅しなくても不思議に思わなかった。ところがね、ある日父親がドイツにいるはずの時に、たまたま臨時休暇になったママが銀座で会っちゃったの。 若いスーツ姿の女性と親しげに話しながら歩いてたんだって。ママが声をかけたら驚いてて、 あっという間に離婚が決まって。 その女性、父親の実の娘だったの。私より8つ歳上。ね、酷くない?あっちの娘が結婚して赤ちゃんできたお祝いに、銀座で豪華ランチしてたんだって。はあ?こっちの娘は高校2年になったばかりで多感なお年頃なんですけど! 私が生まれる前からすでに浮気して子供いたなんて、もう信じられない。汚らわしいっ! だよね。」 熱っぽく一気に話し続けるハナの勢いに押されたタクミは、相槌もそこそこに早く教室に入りたくてしかたなかった。 「いろいろあるもんだね。ところで、最初は 職員室にいくでしょ?俺案内した方がいい? 1人で行ける?あ、大丈夫だね。じゃ、俺は こっちから入るんで、君はあっちね。」 そう言うとタクミはいつもの階段を上がって3階の教室に入った。 程なくして担任が転校生を連れて入って来た。 ハナだ。定型の転校生紹介の後、ハナはタクミの後ろの席に座った。 ハナは勉強が得意で、英語の発音が流暢で感嘆の声が上がったほどだ。 数学の計算スピードも速い。歴史上の人物の名前も次から次へと出てくる。 初日からハナは人気者となった。 一方タクミも負けてはいなかった。 スポーツ万能、成績優秀、人当たりも良く友人も多い。 クラスでハナとタクミが話をするのは、誰が見ても自然なことだった。 昼休みになると、2人を囲んで学食は賑わった。 ザ青春。朝タクミに話しかけたのとは違った テンポと明るさで、ハナは周りを惹き込んだ。 一方タクミもいつも通り、友人らと筋肉の話やらゲームの話しで盛り上がっていた。 午後の授業が終わり、期末テスト前とあって 皆ぞろぞろと下校する。 タクミはいつもの友人らに、今日自転車で来られなかった経緯を話していたが、なぜかハナと車で来たことは言っていなかった。 「タクミー!じゃな!明日は姉ちゃんにチャリ取られんなよ!」 手を振り合って、タクミは駅方面へ歩き出す。 そこへハナが追いついてきた。 「タクミくん!帰りどうする?電車?ママが今朝の辺りに停まってるんだって。どう?」 「いや、電車で帰りたいんだ。駅前の本屋にも寄りたいし。ありがとう。お母さんによろしく伝えてよ。じゃあ。また明日。」 タクミはハナの誘いは断り歩き出した。実際、 本屋で今日発売のコミックを買うつもりだったし、なんとなく、ハナと一緒に帰るところを誰かに見られたくなかった。
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