あーあ

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あーあ

花火大会は大勢の人で混んでいた。 老若男女とはこのことか。 タクミとハナは待ち合わせの駅から大分離れた所から、2人で歩いていた。さすがに車を停める所が見つからなくて、ハナの母親が、ここから歩いてくれる?と諦めた。 駅に近づくにつれ賑やかさは増していく。 ハナははぐれないようにとタクミの浴衣の袖を握った。気づいたタクミは、ハナがしっかり掴まれるようにと、自分の腕にハナの手を置く。 タクミの腕にしがみつくように、ハナは歩く。 そろそろ待ち合わせの駅が見えてきた。 タクミが、指さすと、ハナは、組んでいた腕を離してタクミの後ろを歩いた。 駅に着くと、クラスメイトらはみんな先に揃っていた。最後に合流した2人を囲み、それぞれ浴衣姿を見て褒めあったり、写真を撮り合って笑い声が絶えない。 待ち合わせの駅前には、他にもいくつもの若者のグループがあった。会場手前の駅から、道路沿いに続く屋台の間を、たこ焼きやポテトやチョコバナナなど、好きな物を手に、仲間と歩く。花火と同じ様に楽しみなのがこの屋台だ。 会場が近くなる。少し人混みの薄くなった場所を見つけ、タクミたちはそこで花火が上がるのを待った。 アナウンスが話し始め、大きな音と共に花火が上がり始める。歓声、拍手、振動。 暗闇が明るくなる度に、視線の先にはいくつものカップルの影が浮き上がる。 タクミたちのグループにもすでに手を繋いでいる2人、腕を組む2人、肩を抱かれている女子がいて、それぞれの世界ができている。 タクミとハナはワイワイグループの中で歓声を上げていたが、誰かの、 「じゃ、カップルはここから別行動でお願いしまーす♪」 の声に、2人でその場から押し出されてしまった。 「いやいや、俺ら違うでしょ。」 とタクミが笑ってハナの方を見ると、ハナも又 「いやいや、私たち違うでしょ。」 と笑っていた。 けれど、大人数より別れた方が動きやすいのも確かだ。他のカップルにならって、2人もクラスのグループから離れて歩き出す。 ハナが言う。 「私ね、親の離婚のことがあってから、恋愛に興味がなくなったんだ。なんか気持ち悪いっていうか、仲良しならいいんだけど、なんていうのかな。彼氏彼女とか、恋人とか、無理。」 それに応える様にタクミも言う。 「俺もさ、同じ。前は可愛い女子見たら浮かれたりしたけど、父親の一件からは、そういう感情を持つことがすでに嫌悪。ハナのこともさ、 恋愛感情じゃないんだよな。可愛いよ。どきどきもしちゃうよ。でもだから一緒にいたいとかどうこうしたいとか、他の男子と一緒にいるのが嫌だとか。そう言う気持ちじゃないんだ。」 「妹 でもないし。」 「お兄ちゃん でもないし。」 「仲間 とも違うし。」 「仲間 とも違うし。」 「相棒 ってわけでもないし。」 「相棒 ってわけでもないし。」 「同士 ってやつかなぁ。」 「同士 って感じかなぁ。」 2人は同じ言葉を同時に発しながら、 「それ一体、何同士?」 「やだもう何同士よ?」 と言って笑い合った。 声を上げて、笑い合った。 花火の音にかき消されながら、2人は笑いながら、手を繋ぎ、駅に向かって歩いた。 「俺、帰るわ。」 「うん。私ももう帰りたい。」 初めて出会った交差点で、ハナが母親の迎えの車に乗るのを見届けて、タクミはふと思う。 このまま2度とハナに会えなくても、俺は全然寂しくない。きっとハナも同じだ。 これじゃ、同士 でもないかもな。 いや、やっぱり 同士 かな。似た者同士? なんで俺とハナは出会ったんだろうね。 家のドアを開けると中から母親の声がした。 「早かったわね。」 「うん。お土産のたこ焼きと焼きそばが冷めないうちに帰ってきた。一緒に食べようよ。」
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