占いなんて大嫌いだ!

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「……おまえは…不破か?」 「はい…。遅れてすみません…。」 現在、8時10分。 あの後家を出た俺は、8時の始業に間に合わず 担任と思しき先生に(意外と若い先生だななんて思いながら)謝罪していた。 HR中であったであろう教室の皆の視線が、全て俺に向けられ、静まり返っている。死にてえ…。 「あー、ほ〜、おまえ。登校初日に遅刻とは…いい度胸…いやすまん。どうしたその格好、なにがあった?」 「いえ、ちょっと登校中におじいさんのまいていた打ち水をモロにくらい、その後、野良犬に追いかけられ、なんとか撒いたと思ったら今度はでくわしたひったくりと一悶着あり、お巡りさんに事情などを説明したりで拘束されまして…」 「漫画か?」 「現実です」 現実だ(大事だから2回言う) ちなみに俺は6時に家を出た。 学校は家からそう遠くはなく、15分くらいなのだが、ここまでくるのに2時間かかったということだ。 「いや、嘘だとしてもベタベタだぞ〜。打ち水は信じるけど」 先生は俺の言ったことの全てを信じてはくれなかった。 ただし、びしょ濡れの俺の姿を見て、おじいさんの打ち水は信じてくれた。 ちなみに、びしょ濡れのまま野良犬から必死に逃げていたので、びしょ濡れな上に所々制服が泥で汚れている。 ちょっとしたわんぱく小僧だ。あんのクソ犬…。 「保健室でタオル借りてこい」 「いいです。あるんで」 「準備いいな、おい」 「じゃあとりあえず、座れ〜」と言いながら 先生が指差した空いている席を目指し、ようやく俺は教室への第一歩を踏みしめた。 さっきまで俺を呆然と見つめていたクラスメイト達は、近くの席の奴と耳を寄り合わせながらひそひそと話しはじめる。 「あの子が不破くん?」 「ずっと休んでた子だよねぇ」 「なに?登校初日のギャグ?」 「だとしたらすべってるって〜」 「もしかして、ちょっと変な子?」 母さんごめんなさい。友達できないかも。 つうかギャグっつたの誰だ。殴るぞ。 こちとら本気だ。 ギャグだとしても、こんなつまらんことはしない。 母さんが用意してくれていたタオルをカバンから取り出し、体を拭きながらうんざりとした気持ちになる。 まぁ実際、こういうことには"よくある" 水をぶっかけられるのも、 犬に追いかけられるのも、 "よくある"ことなのだ。 だから母さんもタオルを用意してくれていた。 前に水をぶっかけてきたのは、ちっちゃい子供だったなあ…。ホースで、勢いよく。 「大丈夫?」 「…えあ」 前に遭遇した元気いっぱいのお子さんのことを思い出していたら、隣から声をかけられた。 隣の席は男だった。 多分男女の人数があっていないのだろう。 こういう共学の学校は男女が隣になるように席を配置するもんだが、俺の隣は男。 しかも、なんか、女子ウケよさそうな顔のやつだな。 切れ長の目と少し長めの前髪がクールな印象で、やたらと肌が白い。鼻筋もすっきり細長くいい形だ。 まさか「大丈夫」なんて声をかけられるとは思っていなかったし、その女子ウケよさそうな顔に気をとられて間のぬけた返事の後、俺は言葉がでてこなかった。 「…犬に追いかけられたって、噛まれたりしてないの?」 俺が黙っているので、仕方なく再度言葉をかけてくる。隣の席のやつ。 「あ、あー、大丈夫。噛まれたりはしてないから…」 「ふーん」 「…」 「えーっと…さ、」 「じゃあひったくりは?」 「は?」 微妙な空気に耐えられず、なにか言おうとしたら 言葉を遮られる。 「…一悶着あったって言ってた。なにかされてないの?」 「だ、大丈夫…。ナヨいおっさんだったし、転んだ拍子にぶつかっただけだし…」 打ちどころが悪かったのか目をクルクルさせてたな…。 「ふーん、そう。それは、よかったね」 「はぁ…どうも…」 心配してくれている? あの漫画みたいな話を信じている? 心配して声をかけてくれているのだろうか。 もしくはからかわれているのか…。 「あの、名前聞いても?」 「…星野」 とりあえず名前でも聞くか、と思った俺の問いに 星野は無表情にまた無感情にぽつりと名前を教えてくれた。 「星野くんか、あ、ありがとう。心配してくれて」 多分。これでからかわれてたら一発見舞ってやろう。 まぁ、大抵俺の話を信じる奴はいないので、拳の準備をしておくか。 「心配…」 そうぽつりと言うと、星野は俺の顔をじっと見つめてきた。お?なんだこら。やんのかこら。 「…そうだね。君、ちょっと心配かも」 「え」 「こういう事、よくあるんでしょ」 「え」 「え」しかでてこねえ。 これは驚いた。星野は嘘を言ってたり、からかって言ってる風には聞こえない。 どこまでも素直な感じがした。なんとなくだが。 俺の"こういう事"は大抵嘘扱いされるか、信じてくれてもバカにしてくるやつばっかりだ。 素直に心配してくれることはない。 まぁ、"こういう事"を何度も繰り返すはめになる俺にも問題はあるだろうが。 ちょっぴり嬉しかったり…。 「あはは、そうなんだよ。まぁよくあるっていうか、たまたま〜みたいな」 朝の占いを信じるわけじゃない。 絶対信じるわけではないが、友達ができそうな雰囲気に浮き足立ち、なんとか会話を続けようとした俺の目の前にあるものが飛び出してきた。 虫メガネだった。 「君、水難の相があるよ」 「…はい?」 その虫メガネは星野の手によって取り出されたものだった。 星野は虫メガネを俺の顔に近づけてこれでもかというくらい俺の顔を凝視している。 「女難の相も…ちょっと。あ、あと君ここにホクロがあるからきっと」 「俺は…」 「え、なに?」 「俺は占いが大嫌いなんだああああ!!!!」 俺の怒号は教室に響き渡った。 「おーい、そこ先生の話を聞きなさーい」
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